第95話 ポータル
「アシュレイ格好良すぎ! 俺も次に潜る時は絶対に装備買う〜!」
アシュレイは8階層の階段に向かう前に、防熱難燃素材の装備とやらに着替えた。真っ黒の艶々したロング丈のローブを着て、顔にはマスクではなくローブと同じ生地のハンカチのようなものを鼻と口を覆うように頭に縛り付けていた。熱気を吸い込むと気管がやられるのだとか。靴も多分同じ生地のロングブーツに履き替えていて、黒づくめの姿はちょっと暗殺者を彷彿とさせる感じだ。
確かに格好いいが、それはアシュレイの元々の姿が美形だからかもしれない。だが確かに格好いい。俺も美形に生まれていれば、あんな格好をしてちょっと影のある格好いい男になりたかった。
8階層は階段を降りていくだけで熱気が上がってきた。そこに広がる景色は赤だ。
アシュレイはマグマを避けて進めばいいと言ったが、至る所にマグマがボコボコと沸いているんだが……
ココが集中して結界をかけてくれているため、俺たちは火傷するほどの熱は感じなかった。真夏の炎天下程度の暑さだ。汗は吹き出してくるが、それは視覚的な効果もあるのかもしれない。
この階層は洞窟ではないから、迷路のように入り組んだ道はない。例え逸れたとしても、索敵を広げればみんなの場所が分かるし、マグマを飛び越えていけば、直線で最短距離で仲間のところに戻れる。
ただし、ココの側にいなければ、火傷するほどの熱に耐えなければならなくなる。
「この階層も駆け抜けて、暴れるなら9階層にする〜?」
「その方がいいだろう。逸れても辿り着けるが、火傷するのは嫌だ」
さすがのドランもここで思い思いに戦うのは反対らしい。
ということで、さっさと駆け抜けて次の階層へ向かうことにした。
「冷気撒きながら行けばさ、マグマを目の前に立ち往生することもないんじゃない?」
「マグマを冷気程度で冷やすことは難しいのでは?」
アシュレイの意見はもっともだが、レオンはその不可能を可能にするほどの力があるんだよな……
「じゃあ今回もよーいドンする?」
「レオン、そのよーいドンとはなんなんだ?」
「あ〜、そっかこの掛け声って地球の日本限定か〜、『よーい』って掛け声で、出発の準備をして、『ドン』で走り出す。これ日本式! オーケイ?」
なんか分からんが、レオンやアリサの故郷ではその謎の掛け声で走り出すらしい。
それが勇者パーティーでも採用された。
「あ、でもアシュレイは俊足持ってないから、今回は一般人が走るくらいのスピードで進むね〜。じゃあよーいドン!」
よーいで準備するんじゃないのかよ。準備する間も無く走り出しやがって。
レオンは冷気を広げながら、先頭をアシュレイと共に走っていく。
人間辞めているレオンの冷気なら、マグマだって黒く冷たい岩になる。凸凹して足場は悪いが、マグマに邪魔をされることなく下の階に降りる階段まで一直線で進むことができた。
「まさか冷気でマグマを抑えることができるとは……」
階段を目の前に、少し呆れた様子でアシュレイが呟いている。
そうだアシュレイ。これが勇者……(略
ただ走るだけだった8階層を超え、9階層は草原だった。人の背丈ほどもある背の高い草が生い茂っており、非常に進みにくい。
しかし、気配を探ると、少し強い魔物も点在しているようだった。そして冒険者らしき気配もある。
「この階層は見た通り草原です。ただ、背の高い草がずっと続いているので、片手剣などで薙ぎ払いながら進まなければなりません。誰もいなければ火で焼き払ってもいいんですが、他の冒険者が何組かいるようなので、焼き払うのはお勧めしません」
10階層までは無理に進んでポータルに登録すると聞いていたが、彼らはまだ登録していないんだろうか? それにしては結構な数が確認できた。
アシュレイに聞いてみると、彼らはランクの高い冒険者に付き添ってもらいって10階層まで行き、ポータルに登録はしているが、その先に進む実力がない者たちらしい。
毎回1階層から順に進めていくのは面倒ということで、10階層にまで飛んで、10階層や9階層で鍛えて、実力をつけてから下に潜るつもりなのだとか。
そんな使い方もできるのか。確かに1階層からしばらくは弱すぎて鍛えられない。俺たちなんて魔物が出てきてもくれなかった。火山やアンデッド地帯を毎回抜けるのは大変だから、ここで鍛えるのか。
冒険者は自己責任。ここで鍛えて下の階層を目指す者たちは、ちゃんと自分の実力を分かっていて、無茶はしない者たちなんだろう。
9階層を突破して10階層に向かう階段を下ると、広い空間があった。
そしてそこの中心に俺の腰の高さほどの台座があって、その上に水色っぽい球が乗っていた。あれがポータルか。
あれは移動できないらしい。ポータルとして階層の移動に使う分には問題ないが、攻撃を加えたり移動させたりしようとすると、即死級の得体の知れない魔法が発動されるらしい。そんな恐ろしいものよく使うな……
「先に登録するぞ」
「登録したら9階層戻っていい〜? バルムンクが足りないって言ってるからさ〜」
そうだろうな。バルムンクが9階層で満足するかは知らんが、数をこなせばいいってことか?
ドランもまだ戦い足りないという顔をしている。
「10階層は見なくてもいいのか?」
「いいかな〜、出る魔物は同じだって話だし、薬草がいっぱい生えてるんでしょ? 暴れ回ったらアデル怒るじゃん」
「そうか」
怒りはしないが、俺は薬草が豊富に生えているという10階層に行きたかった。
「俺は10階層に行きたいんだが」
「いいよ。行っておいでよ。アデルなら一人でも平気だろうし、他のみんなはどうするの〜? 俺とドランは9階層に行くけど〜」
ということで、レオンとドランはそれぞれ単独で9階層に行くらしい。アリサとココは二人で10階層をチラ見してからどっちで鍛えるのか決めるそうだ。
アシュレイは俺と一緒に来てくれることになった。ポチは迷子になって帰ってこなくなりそうなドランについて行った。
「レオンだけ異常なのかと思いましたが、全員強いのも分かっていましたが、みんな実力が桁違いなんですね。私はAランクになって長いですが、こんなに驚きの連続だったのは初めてです」
アシュレイは言葉を丁寧に選びながら言ったが、要するに全員人間辞めてると言われたわけだ。
俺が、鑑定を使いながら、風魔法でハーブや薬草を刈り取って、手元に戻ってくるまでに刻んで乾燥させておくという実に無駄のない魔法を見せたら、そんなことを言われた。
今集めたハーブは人間用だ。次に集めるのはワイバーン用。奴らはグルメなだけあって、気に入ったハーブとそうでないものがある。いちいち文句をつけてくるんだ。
味の分かるワイバーンの世話は実に面倒だ。
閲覧ありがとうございます。




