第97話 よーいドン!
「じゃあワイバーンたちのところまでスキル全力で競争ね」
「は?」
「競争? 走るのか?」
俺とドランの疑問を無視して、例の言葉がレオンの口から発せられた。
「よーいドン!」
「あ、ちょっ、待て」
「ずるいぞ!」
レオンの掛け声に合わせて俺たちは森を駆け抜けた。
俺たちはスキル俊足を使って身体強化も使っているが、ポチはそんな俺たちを挑発するように先頭に出て後ろを振り向いたり、手を抜いて最後尾に回ったりして遊んでいる。
さすがケルベロス、身体能力が並じゃない。
後ろを振り向いても頭が3つもあれば、前も横もしっかり確認できる。意外と便利そうだな。
ワイバーンのところに戻ると、次男は相変わらずシュアを抱え込んでいた。
「シュアをいじめてないだろうな? ちょっと見せろ」
俺がそう言うと、次男はフンッと鼻で笑ってチラッとシュアを見せてくれた。そこには厳ついブラッディオーガが丸まって寝ていた。
安心しきっているが大丈夫なのか? 俺もシュアと寝たかったのに。
レオンにワイバーンの餌用の魔物を大量に出してもらい、バルムンクでぶつ切りにすると、俺はダンジョン製のハーブミックスを振りかけて肉をどんどん焼いていった。
「アデルはここにいる〜?」
「は? レオンはどこかに行くのか? もう日が暮れて真っ暗だぞ?」
「バルムンクが物足りないって言うからさ〜、ちょっと行ってくる」
「俺ももう少し戦いたい」
ドランもかよ!
ドランはワイバーンたちの食事には関係ないのに宿に泊まらないのはなぜかと思っていたが、そういうことか。
「二人とも行ってこいよ。俺はここにいる」
「じゃあ行ってくるね〜」
俺は今日はダンジョンでそれなりに戦ったから、ふかふかなクッションに座ってゆっくり休むとしよう。
「レオン、よーいドン!」
「あっ! ドランずるい!」
なんだドランも「よーいドン」の掛け声が気に入ったのか。二人の遠ざかる背中を眺めながら、俺は焚き火の横で寛いだ。
「ポチ、お前は行かなくていいのか?」
ワッフ〜
「何を言っているのか分からんが、ダンジョンではドランに付き合って疲れたか?」
ワッフ〜
ワイバーンたちが、ポチの顔色を伺うように、俺が焼いた肉の良さげな部分をポチの前に献上している。それをガツガツと食べながら、ポチは俺に上機嫌で返事をした。
ポチの機嫌がよさそうなので、ワイバーンたちも安心してガツガツと肉を食っているし、シュアも次男と一緒に肉を手掴みで食っている。
次男が甲斐甲斐しくシュアの世話を焼いているように見えるのが不思議だ。
オーガJr.の時は何の興味も示していなかったのに、ブラッディオーガになって急にだ。
他のワイバーンは特に興味を示していないのを見ると、ワイバーンがブラッディオーガに執着する習性があるわけでもなさそうだ。
「トトー、お水ください」
シュアにとっては少し塩っぱかったんだろうか? それとも寝ていて乾燥したのか?
オーガJr.の頃から使っている木のジョッキではちょっと小さいな。
水をシュアに渡すと、クッションに戻って風魔法を飛ばして、その辺の木を1本切った。
ちまちまと削ったりせずとも、今の俺なら手も触れずにでかいジョッキくらい作れる。ふわふわと空中で適当な大きさに切って、風魔法で中をくり抜いてジョッキを作り上げた。
これはジョッキというより取っ手が付いた樽みたいなものだな。10リットルくらい入るでかいシュア用のジョッキを作ると、水を入れてシュアに渡した。
「シュアの新しいコップだぞ」
「トト好き。嬉しい。お水いっぱい」
シュアが怖い顔で嬉しそうに笑っている。
ワッフ〜
「ん? ポチも水が欲しいのか?」
ワッフ〜
これはたぶん肯定だよな?
シュアのジョッキを作った時の木が余っていたから、頭が3つあるポチのために牧場などにある家畜の吸水器のような横長の桶を作って水を入れてやった。
ケルベロスって頭は3つあるが、内臓はどうなってるんだ? 腹は一つだよな?
分からん。そんなことは考えるだけ無駄ということだ。
クッションに寝そべって、木々の隙間から見える星を眺める。
ワイバーンの群とブラッディオーガとケルベロスに囲まれて寛いでいる今の状況、異常だよな。普通の人間なら絶体絶命だと思い、血の気が引いて震えているだろう。
もういい加減、人間辞めていることを受け入れなければならない。
俺の傍に寝そべっているポチの頭を順番に撫でながら、そんなことを考えた。
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