古い悪魔 5
振り悪魔は王宮の入り口にいた。学園とは違い、王宮の門の前には騎士がいた。彼は既に悪魔がこの国にいることを知らされているため、彼が悪魔だというのはすぐにわかった。目立つ格好をしていれば、その特徴を伝えられるだけで目の前のそれが悪魔だとわかるのだ。騎士は一人で、全身に冷や汗をかきながら、悪魔の前に立ちはだかる。剣を抜くときに、剣身と鞘が何度もぶつかり、カチカチと音を立てていた。それは恐怖から来るものだが、彼は騎士であるため、その恐怖心も抑えなくてはいけない。剣先を微妙に震わせながら、彼は剣を構えた。
「剣で戦うというのは、昔と変わりありませんね。あの時よりも技術が進化しているということでしょうか。いや、戦ってみればわかることでしたね」
悪魔はいつでも戦うことができるようだが、戦闘態勢というのはないようで、剣を向けても怖がっている様子がない。それどころが、騎士と戦うことに期待しているような様子だ。騎士は相手が嬉々として戦おうとしていることに、その異常さに恐怖がわくが、それを抑えて彼は戦わなくてはいけない。
騎士は、腰に剣以外の物をつけていた。それは、球の形をしていたが、外から見てもそれが何かはわからない。悪魔はそれが何かわからないが、それを封じる気など全くなく、騎士がその球を手に取った時もそれをただただ眺めているだけだった。実際にその球を使っているところを見たいという欲求を抑えられなかったのだ。
騎士はその球を地面に叩きつけた。その瞬間、何かが破裂したような、大きな音があたりに響き渡る。破裂音がした後に、甲高い音があたりに響き渡る。その音は王宮の中に響き渡る。その音を聞いたものは音を伝える性質のある風の魔気のおかげで、音の中心地が、魔気の濃度を辿ればわかる。訓練しなければ、魔気の濃さはわからないが、騎士たちはその訓練もしているのだ。すぐに他の騎士が来るだろう。
「なるほど。昔から人間は集団で戦うのが得意でしたね。そのために人を集める手段を開発したというところですか。私は、貴方たちが集まる前に、貴方を殺さなくてはいけない、ということですかね。まぁ、逃げるのも殺すのも、私には造作もないことですがね」
騎士は彼の言葉に耳を傾けることなく、自ら仕掛けることもしない。誰かが来れば、少しは有利に戦えるだろう。どれだけ強くとも、人数差を覆すのは難しいと考えていた。騎士団長も副団長も強いのだ。彼らも来るだろうし、王宮の騎士を集めれば、その人数は六十を超える。六十人全員が王宮にいるわけではないが、それでも四十人ほどは集まるだろう。そうすれば、いくら古い悪魔と言えども、痛手を負わせるくらいはできるはずだ。そして、人の力を当てにするのは、恥だとは思うが、この国には聖女様とその付き人様がいる。痛手を負わせることができれば、この悪魔を封印ではなく、討伐することもできるかもしれない。
彼は自身の恐怖心と緊張を、仲間の騎士とこの国にある希望で抑え込んでいた。彼が人が集まるのを冷静に待つことができるのも、この国には聖女たちがいるからだった。それだけ、聖女は人の心の支えになっている存在なのだ。
「ふむ。貴方に先手を譲りますと、言っているのですが、攻撃してこないのですか? それとも、時間稼ぎですか、他の騎士が来るのを待つ、と?」
悪魔はただただ喋るだけで、攻撃しようともしていない。彼と騎士の距離は一歩や二歩で届くような距離ではなかった。どちらかが近づくか、魔法を使わなければ、攻撃することはできない。その距離を詰めようともせずに、ただただ立っているだけとなれば、そういう魂胆があるのはわかるかもしれないが、騎士は一人で悪魔に勝てるなんて思っていない。彼の言うとおりに時間稼ぎをしているだけだ。彼は防戦する以外の選択肢を今はとる気がなかった。
「そうですか、そうですか。個人技ではあまり進化していないということの証左でしょうか。それとも、技術を隠している? どちらにしても、気に入りませんね。戦う力をつけているはずでしょう?」
悪魔の問いかけには一つも反応しない。ただただ剣を握り続けているだけだ。相手の動きを少しも見逃さないように視線を動かさない。相手が動けばすぐに反応できるように構えていた。
「会話すらしていただけないとは、面白くありませんね。昔の人間にも、そういう人はいましたが、結局は仲間が来ても私を倒すどころか、相手にもなりませんでしたが」
悪魔は余裕そうに彼に話かけ続けている。彼はここまで、この町の中の人間の進化を見てきたが、彼は自分が勝つことに少しも疑問を抱いていなかった。




