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月曜日の放課後、君は今日も眠そうだ  作者: 佐倉伊月
ドキドキ臨海学校編
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6/7

五日目 あと5分は絶対に10分以上寝る

「と、とにかく! あと1時間あるんだから、何か方法を考えよう!」


僕はそう言って、気合を入れ直した。

そもそも、どうして僕たちは雨宮さんを起こすだけのことに、こんなにも苦戦しているのだろうか。


「うーん……」

白石さんが腕を組んで考え込む。


「澪ってさ、普段から寝起き悪いんだよねー。授業中も休み時間も寝てるし、たまに休み時間終わっても寝てるし」


「それは知っていますけど……」


……いや、待てよ?

「もしかして、雨宮さんって寝ている間は周りの音が聞こえないタイプなんじゃない?」


「その可能性はありますね。ですが、先ほどから肩を揺すっても反応が薄い。単純に睡眠が深いだけかもしれませ んが」


「じゃあ、どうするの?」

藤谷さんが尋ねる。


「そうですね……」

悠真は眼鏡の位置を直し、少し考えたあと、真剣な顔で言った。

「大きな音を出してみましょう」


「却下」


「早いですね!?」

思わず即答してしまった。


いや、だって。

「雨宮さん、起きたときに絶対びっくりするでしょ! それに、せっかく寝てるのに大声で起こすのはかわいそうだし……」


「では、あなたはどうしたいんですか?」


「そ、それは……」

何も思いつくはずもなく。


「……すみませんでした」


「わかればいいんです」

悠真、容赦がない。


「はいはーい! じゃあ、次は私の番!」

白石さんが元気よく手を挙げた。

「澪〜! 起きないと、カレー全部食べちゃうぞー!」

「…………」

雨宮さんは微動だにしなかった。


「むむむ……ならば!」

白石さんは少し考えてから、再び雨宮さんの耳元に顔を近づけた。

「澪〜。購買の新作プリン、売り切れちゃうよ〜?」

「…………ん……」


お!

今、反応した!?

雨宮さんの眉が、ぴくりと動いた。

「おおっ! 反応した!」

「なるほど。食べ物で釣る作戦ですか」

悠真も感心したように頷く。


さすが白石さん!

雨宮さんの扱いをよくわかっている!

「よーし、これはいけるかも! 澪〜、今日はデザートもあるらしいよ〜。しかも、みんなで食べるんだって〜!」

「…………すぅ……」


寝た。

さっきの反応は何だったんだ。


「だめかー」

白石さんが肩を落とした。


「というか、雨宮さんって本当に食べ物に釣られるの?」

僕が尋ねると、白石さんは首を傾げた。

「んー? 澪、食べるの好きだよ? でも、眠いときは食欲より睡眠欲が勝つんだよねー」


人間の三大欲求のうち、睡眠欲だけ突出していないだろうか。

いや、雨宮さんならあり得る。


「では、食べ物作戦は保留ですね」

悠真が腕時計を確認する。

「残り、五十分です」

「まだ五十分もあるじゃん!」

藤谷さんが前向きに言う。

「そうですね。逆に言えば、五十分しかありません」

「悠真、そういう言い方やめてくれない!?」

「事実を述べただけですが」

確かに…このままでは、本当にカレー作りの時間になってしまう。


そのとき、僕はあることを思いついた。

「……そうだ!」

「おっ、何か思いついた?」

白石さんが期待に満ちた目でこちらを見る。

「雨宮さんが寝てる理由って、単純に眠いからだよね?」

「まあ、そうでしょうね」

悠真が頷く。

「だったら、眠くなくなれば起きるんじゃない?」

「…………」

三人の視線が僕に集まった。

あれ?

何かおかしなことを言っただろうか。

「……橋本くん」

「な、何?」

「それは、ただ放置しているだけでは?」

「…………」

「つまり、何も解決していません」

「ですよねー!!」


自分でも言っていておかしいとは思ったんだよ!

「うーん……」

僕は頭を抱えた。

もういっそ、先生に相談して、雨宮さんだけテントで寝かせてもらうとか?

いや、それはそれでカレー作りに参加できなくなる。

せっかくの臨海学校なのに、それは少しもったいない気がする。


……ん?

そういえば。

「雨宮さんって、寝ているときに夢を見てるのかな?」

「……はい?」

悠真が不思議そうな顔をする。

「いや、寝てるんだから夢くらい見るんじゃないかなって」

「それはそうでしょうが……。今、それが何か関係ありますか?」

「夢の中で、楽しいことがあったら起きたくなくなるじゃん?」

「まあ、人によってはそうかもしれませんね」

「だったら、夢よりも楽しいことがあるって教えてあげれば、起きるんじゃない?」

僕は自信満々に言い切った。


……言い切ったあとで気づいた。

具体的な方法がない。

「…………」

「…………」

「…………」

「みんな、何か言って?」

「いえ」

悠真が眼鏡を押し上げる。

「あなたが勢いだけで話していることは、よくわかりました」

「ひどくない!?」

「でも、夢より楽しいことかぁ……」

白石さんは顎に手を当てて考え込んでいる。

「澪が好きそうなこと……。うーん、甘いもの? お昼寝? 静かな場所?」

「最後の二つは、今この状況そのものですね」

「確かに!」

「確かにじゃないよ! 今、それで起きなくて困ってるんだから!」


僕たちの作戦会議は、早くも行き詰まっていた。

そのとき。

「……あ」

藤谷さんが、ぽん、と手を叩いた。

「そうだ! 澪って、あれ好きじゃなかったっけ?」

「あれ?」

「ほら、前に学校で話してたやつ!」

「……何のことです?」

悠真が尋ねる。


藤谷さんは少し考え、そして、にやりと笑った。

「ふっふっふ。これはいけるかもしれない」


その顔は、先ほど先生との交渉に成功したときと同じだった。

嫌な予感がする。

「……藤谷さん?」

「実はねー、澪って……」

藤谷さんが僕たちに耳打ちする。

「…………えっ!?」

「……なるほど」

悠真が珍しく目を見開いた。

「それは確かに、試してみる価値がありそうですね」

「でしょー?」

二人は顔を見合わせて頷いている。


え、何?

僕だけ話についていけていないんだけど!?

「ちょ、ちょっと待って!どういう作戦なの!?」

「それはねー……」

藤谷さんが楽しそうに笑った。

「起きてからのお楽しみ!」

「いや、今起こす方法を考えてるんですけど!?」

「まあまあ、橋本くん。細かいことは気にしない!」

細かくないよ!

そこが一番重要なところだよ!


とはいえ、二人がここまで自信を持っているのなら、期待してもいいのかもしれない。

僕は固唾を呑んで見守った。

藤谷さんは雨宮さんの前にしゃがみ込むと、優しい声で呼びかけた。

「澪〜。ねえ、澪ってば」

「……ん……」

「今日、帰りに寄り道してもいいんだって」

「…………」

「しかも、駅前に新しいお店ができたらしいよ?」

「…………んぅ……」

おおっ!

さっきより反応が大きい!

「あとねー、そこ、期間限定の……」

「……っ!」


雨宮さんの目が、ぱちりと開いた。

「……どこ?」

「「「起きたああああああああ!!!」」」

僕たち三人の声が、見事に重なった。

しかし。

「…………?」

雨宮さんは、きょとんとした顔で僕たちを見回す。

それから、ゆっくりと口を開いた。

「……ここ、どこ?」

「臨海学校だよ!?」

思わず叫んでしまった。

「……ん。そっか」

雨宮さんは納得したように頷き、再び目を閉じようとする。

「待って待って待って! 寝ないで! せっかく起きたんだから!」

「……あと五分」

「それさっきも聞いたよ!?」

僕が必死に訴えると、雨宮さんはうっすら目を開けた。

「……朝倉くん?」

「、、、?朝倉ですが…」

「……どうして、朝倉くんが三人いるの?」

「いないよ!? 疲れ目かな!?」


どうやら、まだ意識が完全には戻っていないらしい。

その様子を見て、白石さんがくすくす笑った。

「澪、寝ぼけてるねー」

「……千尋?」

「はーい、千尋ですよー」

「……ん」

雨宮さんは白石さんの顔をじっと見つめたあと、ぽつりと呟いた。

「……カレー?」

「そう! カレー作るんだよ!」

「……食べる」

「よしっ! 起きたー!」

白石さんが両手を上げて喜ぶ。

悠真も、ほっとしたように息を吐いた。

「これでようやく、カレー作りに参加できますね」

「いやー、よかったよかった!」

僕も胸を撫で下ろす。

これで一件落着。

……と思ったのだが。

「……ん」

雨宮さんはゆっくり立ち上がると、僕の服の裾をちょこんとつまんだ。

「千尋〜…」

「ん、、、?僕、朝倉ですけど、、、」

「……眠い」

「……おんぶ」

「…………え?」

今、何と?

「……歩くの、めんどくさい」

雨宮さんはそう言うと、再び目を閉じた。

いやいやいや!

ちょっと待って!

これ絶対藤谷さんと勘違いされてるやつじゃん!

「え、ええっと……雨宮さん?僕朝倉で、、、」

「……ん」

「藤谷さんはあっちで、、、」

「……んー」

返事はある。

返事はあるんだけど、会話になっていない!

「朝倉くん」

背後から悠真の声がした。

「……何?」

「女性におんぶを頼まれるとは、なかなかやりますね」

「違うよ!? 頼まれてるの僕じゃないから!」

白石さんまで、にやにやしながらこちらを見ている。

「おっ? 朝倉くん、澪に頼られてるねぇ〜?」

「違う違う!藤谷さん助けて、、、!」

藤谷さんはすでにいなくなっていた。あの気分屋め……

「……ん」

雨宮さんが、僕の服をきゅっと引っ張った。

勝手によじ登ってくる


「では、朝倉くん。雨宮さんを頼みましたよ」

「なんで送り出す側みたいな顔してるの、悠真!?」

「いえ。僕はこれから、調理場の準備状況を確認してきますので」

「逃げる気だろ!」

「失礼ですね。合理的な判断です」


そう言って悠真は、さっさと歩いていってしまった。

「じゃあ私も手伝ってくるねー!」と、白石さんを連れて調理場の方へ向かっていく。

……あれ?

僕、置いていかれてない?

「千尋〜…」

「朝倉です。」

「……まだ?」

「はいはい、今行きますよ……」


そして、ふと思った。

――これ、もしかして。

僕、今日一日ずっと雨宮さんのお世話係になるのでは?

「…………」

いや、まさかね。

さすがに、それはないだろう。

……ないよね?

「ねぇ。」

「…何?」

「……カレー、甘口?」

「えっ、そこ気になるの!?」

雨宮さんは、こくりと頷いた。

「……甘口がいい」

「わかった。先生に聞いてみるよ」

「……ん。ありがと」

そう言って、雨宮さんはまた目を閉じた。


……本当に、自由だなあ。

こうして。

僕の臨海学校は、予想していたものとは少し違う形で始まったのだった。

なお、調理場に到着した僕を待っていたのは、

「おーい! 朝倉ー! ちょうどよかった! カレーの具材切るの手伝ってくれ!」

という、クラスメイトの声だった。

そして、僕の背中では。


「……すぅ……すぅ……」

「…………」

……うん。

まずは、雨宮さんをどうやって起こしたままカレーを作るか。

そこから考えよう。



臨海学校、まだまだ波乱の予感しかしない。

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