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月曜日の放課後、君は今日も眠そうだ  作者: 佐倉伊月
ドキドキ臨海学校編
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7/7

6日目 おんぶって思ったよりむずい。腕の位置とか

「……いや、無理でしょ」


思わず、そんな言葉が口から漏れた。

目の前には、大量の野菜。

右手には包丁。


そして、僕の背中には熟睡中の雨宮さん。

……どうしてこうなった。

いや、経緯はわかっている。わかっているのだが、どう考えてもおかしい。


「朝倉ー? どうしたー? 早く切ってくれー!」

「いや、ちょっと待って! 今、背中に人がいるんだけど!?」

「え? ……うわっ!? 雨宮!?」

クラスメイトが驚きの声を上げる。


そりゃそうだろう。

僕だって、まさか自分が女子をおんぶしたままカレーを作ることになるとは思わなかった。


「えーっと……とりあえず、雨宮さん?そろそろ下ろしてもいいかな?」

「……やだ」


即答だった。

「起きてる!?」

「……ねてる」

「どっち!?」

どうやら、意識の一部だけが覚醒しているらしい。


「……千尋、どこ……?」

「だから僕は朝倉だってば!」

「……んー……」


だめだ。

会話にならない。

すごくいい匂いがして集中できないし、、、

いや、意識はしてないけどね?

決して。

「朝倉くん」

不意に、背後から声がした。

振り返ると、そこには腕を組んだ悠真が立っていた。

「まだやってたんですか。」

悠真は、僕の背中で眠る雨宮さんを見た。

「いや、、半分くらいお前のせいだろ、、なんとかしてくれ」


悠真は顎に手を当て、真剣に考え始めた。

お!

さすが悠真。

流石に困っている友達を見捨てないようだ

「では、簡単ですね」

「おお! どうするの!?」

「そのままカレーを作ればいいのでは?」

「できるかああああああああ!!」

思わず叫んでしまった。


こいつ、本当に僕の友達なのだろうか。


「冗談ですよ」

「絶対、半分くらい本気だったでしょ!?」

「さて、どうでしょう」

悠真は涼しい顔で眼鏡を押し上げた。


くっ……!

いつか絶対に仕返ししてやる……!

「でも、どうするんです? このままでは作業になりませんよ」

「そうなんだよ……。せめて雨宮さんが起きてくれれば……」

「……ん」

「おっ?」

「……カレー……」

「カレーなら今作ってるよ!?」

「……たべる……」

「だから、まだできてないんだって!」

僕の必死の訴えもむなしく、雨宮さんは再び静かな寝息を立て始めた。

……本当に、この人は。

「ふむ。食べ物への執着はあるようですね」

「悠真、何かいい方法ない?」

「ないですね。」

ないのかよ、、、

だめだ。

このままでは、日が暮れてしまう。


そのときだった。

「おーい! みんなー! ちょっと聞いてー!」

調理場の向こうから、白石さんの明るい声が響いた。

何事かと思って顔を向けると、白石さんがクラスメイトたちを集めていた。

「先生がねー、カレー作りの班ごとに、自由にトッピングを追加してもいいって!」

「おおー!」

「マジか!」

クラスメイトたちが一斉に盛り上がる。


……トッピング?

いや、今はそんなことより、僕の背中の問題を解決してほしいんだけど。

「ちなみにー! 追加できるのは、チーズとソーセージと……あと、デザート用のプリン!」


その瞬間。

僕の背中で、何かが動いた。

「……ぷりん?」

「えっ?」

雨宮さんの顔が、僕の肩越しにひょこっと現れた。

半分しか開いていなかった目が、さっきまでとは比べものにならないほど大きく開いている。

「……プリン、あるの?」

「えっ、あ、うん、、、あるみたいだけど……」

「……食べたい」

「うん、そうだね!?」

「……おろして」

「え?」

「……自分で歩く」

そう言うと、雨宮さんは僕の背中からするりと降りた。

そして、何事もなかったかのように髪を整え、制服の上着を軽く払う。

「……おはよう」

「お、おはよう……?」

いや、もう昼なんだけど。

というか。

「雨宮さん、今までのこと覚えてる?」

「……何が?」

「いや、僕の背中で寝てたこととか……」

「……?」

雨宮さんは首を傾げた。

すると雨宮さんの顔がみるみる赤くなっていく

「わ、、、私、、、朝倉くんの背中で寝てた、、、?」

「覚えてないの!?」

……なるほど。

つまり、本人にはまったく自覚がないらしい。

僕は思わず天を仰いだ。

「……もう何も言うまい」

「朝倉くん、苦労してますね」

「誰のせいだと思ってるんだよ……」

「少なくとも、僕ではありませんね」

「お前もだよ!」

そんな僕たちのやり取りを顔を隠している指越しに見ていだ雨宮さんが顔を隠したまま言う

「、、、あ……朝倉くん」

「ん?」

「……あり……がとう」

「…………え?」

突然のお礼に、僕は固まった。

「……運んでくれたんでしょ?」

「……あ、うん。まあ……」

「……ありがと」

それだけ言うと、雨宮さんは照れながらぺこりと頭を下げた。

……。

…………。

………………。

「……どういたしまして」

何だろう。

たったそれだけの言葉なのに、妙に照れくさい。

別に、大したことをしたわけじゃない。

ただ、おんぶして運んだだけだ。

……いや、よく考えたら、それなりに大したことだった気もするけど。


「ふふっ」

隣から、笑い声が聞こえた。

白石さんだ。

「朝倉くん、澪にお礼言われただけで真っ赤じゃん!」

 「あ、、赤くなんかないし!」

「へー?」

「そういうんじゃない!」

「ふーん?」

くっ……!

この人、絶対面白がってる!

「……乃々」

そのとき、雨宮さんが白石さんの袖を引っ張った。

「ん? どうしたの、澪?」

「……プリン」

「あっ、そうだった! プリンは食後ね!」

「…………」

雨宮さんは、じっと白石さんを見つめた。


「……今、食べたい」

「いやいやいや! カレーが先だよ!」

「……むぅ」


雨宮さんが、ほんの少しだけ頬を膨らませた。

……あれ?

この人、もしかして。

「雨宮さんって、甘いものが好きなの?」

僕が尋ねると、雨宮さんはこくりと頷いた。

「うん……好き」

「へえ、、あ!じゃあ、カレー作り頑張ろうよ。早く完成させれば、そのぶん早くプリンも食べられるし」

「…………!」


雨宮さんの目が、わずかに輝いた。

「……わかった」

そして、彼女は調理台の前に立った。

「……何すればいい?」

「えっ、手伝ってくれるの!?」

「……うん。プリンのために」

理由はどうあれ、ようやく参加してくれるらしい。

よかった……!

これで、やっと普通の臨海学校に戻れる!

「じゃあ、雨宮さんは野菜を洗ってくれる?」

「……う、、うん」

雨宮さんは素直に頷き、野菜の入ったボウルを手に取った。

そして。

「…………」

「…………」

「…………あの、雨宮さん?」

「……ん?」

「それ、洗う前の野菜じゃなくて、洗い終わった野菜を入れるボウル……」

「…………」

雨宮さんは、手元をじっと見つめた。

それから、顔を赤くしながらゆっくりと僕の方を向いた。

「わざと、、わざとだから、、、」

結局。

僕は雨宮さんの隣で、野菜の洗い方から説明することになった。

その様子を見ていた悠真が、ぽつりと呟く。

「……朝倉くん」

「何だよ……」

「今日一日、あなたは雨宮さんの専属世話係ですね」

「そんな役職、聞いたことないんだけど!?」

「今、誕生しました」

「勝手に作るなあああああ!!」

海辺に、僕の叫び声が響き渡った。


そして、その隣では。

「……すぅ……」

「雨宮さん!? 野菜洗いながら寝ないで!?」

どうやら、カレーが完成するまでの道のりは、まだまだ長そうだった。

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