第九十九話 便利屋・相沢浩平
ある日の午後
浩平は仕事を終え
作業場で工具を片付けていた
ドライバー
スパナ
ハンマー
一つひとつ丁寧に拭き
元の場所へ戻していく
昔から変わらない
仕事終わりの習慣だった
――――
「浩平さん」
表から声が聞こえた
近所の男性が
少し困った表情で立っている
「雨どいが詰まっちゃって……」
「ちょっと見てもらえませんか?」
浩平は笑顔で頷く
「もちろんです」
「行きましょう」
――――
脚立を立て
落ち葉を取り除く
詰まりがなくなると
雨どいには
勢いよく水が流れた
「助かりました」
男性は何度も頭を下げる
「本当にありがとうございました」
浩平は照れくさそうに笑う
「大したことじゃありません」
「また困ったら呼んでください」
男性は笑顔で帰っていった
――――
夕方
作業場へ戻った浩平は
静かに工具を片付ける
ふと
棚の上に置かれた工具箱へ目を向けた
もう光ることはない
もう新しい依頼も現れない
それでも
浩平はそっと工具箱を撫でる
「お前のおかげで」
「たくさんの人に会えたよ」
静かな作業場に
その声だけが響いた
――――
浩平は
いつもの工具を手に取る
「特別な力なんて」
「もう必要ないな」
小さく笑う
「俺には」
「これがある」
使い込まれた工具には
無数の傷が刻まれていた
その傷は
誰かを助けてきた証だった
――――
作業場の電気を消す
工具を肩に担ぎ
浩平は家へ向かって歩き出す
夕焼けが町を優しく照らしていた
世界は違っても
やることは変わらない
困っている人がいれば
手を貸す
直せるものは直す
それが
便利屋・相澤浩平
その人の生き方だった




