第九十八話 受け継がれるもの
休日の午後
浩平は庭で
工具の手入れをしていた
ドライバー
スパナ
ハンマー
一つひとつ丁寧に汚れを落とし
元の場所へ戻していく
その様子を
椿綺がじっと見つめていた
「気になるか?」
浩平が笑い掛けると
椿綺は小さく手を伸ばした
浩平は危なくない小さなメジャーを手渡す
椿綺は嬉しそうに握りしめる
その姿に
家族みんなが笑顔になった
――――
「じいじと同じだね」
義娘が微笑む
浩平は少し照れくさそうに笑う
「まだ早いよ」
「でも」
「道具は大事にしないとな」
椿綺はメジャーを両手で持ち
興味津々に眺めている
浩平はその姿を見ながら
静かに口を開いた
「道具は」
「人を助けるために使うものだ」
「壊すためじゃない」
円はその言葉を聞き
優しく微笑んだ
「異世界でも」
「ずっとそうだったもんね」
浩平は静かに頷く
「ああ」
「どこの世界でも同じだ」
――――
その時
庭のフェンス越しに
近所の子どもが顔を出した
「浩平さん!」
「サッカーボールが入っちゃった!」
見ると
庭木の奥へボールが転がっている
「待ってろ」
浩平は笑顔で歩いていき
ボールを拾い上げた
「ほら」
「ありがとう!」
子どもは元気よく頭を下げ
走って帰っていく
その姿を見送りながら
浩平は自然と笑みを浮かべた
――――
円が隣へ来る
「また助けてる」
浩平は苦笑する
「大したことじゃないよ」
「困ってたから」
円は小さく笑った
「それが浩平なんだよ」
浩平は空を見上げる
異世界で見た空とは違う
それでも
誰かを助けたいと思う気持ちは
何も変わらなかった
庭では
椿綺がメジャーを握りしめ
楽しそうに笑っている
その笑顔を見て
浩平も自然と笑顔になった
「さて」
「次は何を直そうか」
穏やかな午後の風が
庭を優しく吹き抜けていった




