第九十七話 変わらない毎日
休日の朝
浩平は庭先で
工具箱の手入れをしていた
役目を終えた工具箱は
もう光ることはない
それでも
丁寧に汚れを拭き
金具を磨く
浩平にとって
大切な相棒であることは変わらなかった
――――
「浩ちゃん」
近所に住む佐藤さんが
少し困った顔でやって来た
「ちょっとお願いがあるんだけど」
浩平は笑顔で立ち上がる
「どうしました?」
「玄関の戸が固くなっちゃってね」
「開け閉めが大変なのよ」
「分かりました」
「見せてもらいます」
――――
浩平は工具箱を持って
佐藤さんの家へ向かった
玄関を確認すると
蝶番が少しずれている
「これならすぐ直りますよ」
ドライバーを取り出し
丁寧に調整していく
ギィ……
さっきまで重かった戸が
軽く開いた
「わぁ!」
「すごい!」
佐藤さんは嬉しそうに笑う
「ありがとう」
「助かったよ」
浩平も笑顔で頷く
「困った時は」
「いつでも呼んでください」
――――
家へ戻る途中
円が笑いながら言う
「異世界から帰ってきても」
「やることは変わらないね」
浩平は少し笑う
「ああ」
「結局」
「俺にできることなんて」
「これくらいだからな」
円は首を横へ振る
「違うよ」
「その『これくらい』で」
「助かる人がいるんだから」
浩平は照れくさそうに頭をかいた
「そう言われると」
「悪い気はしないな」
――――
家へ帰ると
椿綺が楽しそうに笑っていた
浩平は抱き上げながら微笑む
「今日も一日」
「平和だったな」
円も隣で笑う
「それが一番だよ」
浩平は静かに頷いた
「ああ」
「平和だからこそ」
「便利屋の出番なんだ」
穏やかな風が
庭の木々を揺らしていた




