第九十六話 思い出話
帰ってきてから
数日が過ぎた
浩平は会社へ復帰し
以前と変わらない毎日を送っていた
朝は仕事へ向かい
夕方には家へ帰る
何気ない日常
それが
今は何より大切に思えた
――――
夕食を終えた夜
家族はリビングへ集まっていた
テーブルには
湯気の立つお茶と
円が作ったお菓子が並んでいる
椿綺は義娘に抱かれ
気持ち良さそうに眠っていた
息子が浩平を見る
「親父」
「異世界の話」
「もっと聞かせてよ」
浩平は少し笑う
「いいぞ」
「何が聞きたい?」
――――
「最初の依頼って何だったの?」
浩平は懐かしそうに笑った
「迷子猫探しだ」
「えっ?」
息子も義娘も驚く
「異世界でも猫が迷子になるんだ?」
浩平は笑いながら頷く
「ああ」
「俺も最初は驚いたよ」
「もっと大変な依頼かと思ってたからな」
部屋に笑いが広がる
「でも」
「あの依頼があったから」
「町のみんなに便利屋として知ってもらえたんだ」
――――
義娘が尋ねる
「その後は?」
「橋を直したり」
「時計塔を修理したり」
「噴水を直したり」
「いろんな依頼があった」
浩平は少し考えてから続ける
「でも」
「一番大変だったのは」
「人と人との間にできた壁をなくすことだったかな」
部屋が静かになる
「壊れた物は直せる」
「でも」
「人の気持ちは」
「時間を掛けないと元には戻らない」
円は優しく頷いた
「だから最後まで諦めなかったんだね」
「ああ」
「それが一番難しかった」
――――
義父が嬉しそうに笑う
「でも浩平は」
「昔からそうだった」
「困っている人を見ると」
「放っておけない」
浩平は照れくさそうに笑う
「性分なんでしょうね」
「直せるものは直したい」
「助けられる人は助けたい」
「それだけです」
義母も微笑んだ
「それが浩ちゃんらしいね」
――――
話は夜遅くまで続いた
職人ギルドの仲間
グラント
エリオット
エドガー
国王
魔王
一人ひとりのことを話すたび
家族は笑い
驚き
静かに耳を傾けていた
浩平にとって
異世界で過ごした日々は
かけがえのない思い出になっていた
――――
浩平は眠る椿綺を見つめる
「大きくなったら」
「椿綺にも話してやろう」
円が優しく微笑む
「きっと喜ぶよ」
浩平も頷く
「ああ」
「何度でも話してやる」
窓の外には
静かな夜空が広がっていた
異世界で見上げた空とは違う
それでも
大切な人たちを想う気持ちは
何も変わらなかった




