第九十五話 おかえり
玄関の向こうから
慌ただしい足音が近付いてくる
ガチャ……
ゆっくりと扉が開いた
「はい――」
息子の言葉が止まる
目の前には
浩平と円が立っていた
しばらく
誰も動かなかった
「……親父?」
震える声だった
浩平は少し照れくさそうに笑う
「ただいま」
その一言で
息子の目に涙があふれる
「おかえり……!」
勢いよく浩平へ抱きついた
浩平は驚きながらも
優しく背中を叩く
「心配かけたな」
息子は何度も頷いた
「本当に……」
「本当に良かった」
――――
その声を聞き
義娘が椿綺を抱いて玄関へやって来る
「お父さん!」
義娘も涙を流していた
浩平は優しく微笑む
「ただいま」
義娘は涙を拭きながら笑う
「おかえりなさい」
椿綺は浩平を見つめ
不思議そうに首を傾げる
浩平はゆっくり手を伸ばした
「大きくなったな」
義娘はそっと椿綺を預ける
浩平は少し緊張しながら抱き上げた
小さな命の温もりが
胸いっぱいに伝わる
「初めまして……かな」
椿綺は浩平の顔をじっと見つめ
やがて
嬉しそうに笑った
その笑顔を見た瞬間
浩平の目から
一筋の涙がこぼれ落ちた
「会いたかった」
その小さな声に
円も静かに涙をぬぐった
――――
「浩ちゃん!」
奥から円の母が駆け寄ってくる
その後ろには父もいた
「お帰り」
母は涙ぐみながら笑う
浩平は深く頭を下げた
「ご心配をおかけしました」
父は浩平の肩を優しく叩く
「無事ならそれでいい」
「帰ってきてくれてありがとう」
浩平は力強く頷いた
「はい」
――――
リビングには
温かい料理が並んでいた
湯気の立つ味噌汁
炊きたてのご飯
円の得意料理が食卓を彩る
「冷める前に食べよう」
母が笑う
みんなが席に着く
浩平は
家族の顔を一人ひとり見渡した
息子
義娘
椿綺
義父
義母
そして
円
みんながいる
それだけで十分だった
浩平は静かに手を合わせる
「いただきます」
家族全員の声が重なる
「いただきます」
いつもの食卓
いつもの笑顔
その何気ない日常が
浩平には
何よりも幸せだった




