第九十三話 また会う日まで
翌朝
浩平と円は
静かな工房を訪れていた
老人は
いつもの椅子に腰掛け
穏やかな表情で二人を迎える
「来たか」
「はい」
浩平は深く頭を下げた
「帰る前に」
「どうしても」
「お礼を言いたくて」
老人は静かに頷いた
「そうか」
――――
しばらく
静かな時間が流れる
浩平は老人へ向き直る
「ありがとうございました」
「あなたがいてくれたから」
「最後まで迷わず進めました」
老人は穏やかに笑う
「礼を言う必要はない」
「決めたのは」
「全部お前さんじゃ」
「わしは」
「少し見守っていただけじゃよ」
浩平は小さく笑った
「その見守りが」
「すごく心強かったんです」
老人は照れくさそうに目を細めた
――――
円も深く頭を下げる
「ありがとうございました」
「浩平が」
「無事に帰ってこられるのも」
「あなたが見守ってくださったからだと思っています」
老人はゆっくり首を横へ振る
「違う」
「浩平には」
「人を助けたいという心があった」
「だから」
「人もまた」
「浩平を助けたいと思った」
「ただそれだけじゃ」
円は優しく微笑み
静かに頷いた
――――
工房の奥で
白い鏡が静かに輝き始める
老人が鏡へ目を向ける
「帰る時じゃな」
浩平も鏡を見る
「あっちでは」
「家族が待っています」
「でも」
「この世界も」
「俺にとって大切な世界になりました」
老人は嬉しそうに頷く
「その言葉で十分じゃ」
――――
老人は浩平の肩へ
そっと手を置く
「これからも」
「困っている人がおったら」
「手を貸してやるんじゃぞ」
浩平は力強く頷いた
「もちろんです」
「俺は」
「便利屋ですから」
老人は満足そうに笑う
「その言葉を聞けて安心した」
――――
浩平と円は
鏡の前へ並ぶ
二人そろって
老人へ深く一礼した
「本当に」
「ありがとうございました」
老人は静かに手を振る
「元気でな」
浩平は笑顔で頷く
「はい」
「また会う日まで」
円も笑顔で続ける
「また会う日まで」
二人は手をつなぎ
ゆっくりと鏡へ向かって歩き出した
眩しい光が
二人を優しく包み込む
老人は
その姿が見えなくなるまで
静かに見送っていた




