第九十二話 それぞれの旅立ち
工房を出た浩平と円は
王城へ向かっていた
空はどこまでも青く
王都は平和を取り戻していた
市場には笑い声が響き
子どもたちが元気よく走り回る
浩平はその景色を見て
静かに微笑んだ
「いい街になったな」
円も頷く
「みんなの頑張りだね」
――――
王城では
国王をはじめ
エリオット
グラント
エドガー
職人ギルドの仲間たちが待っていた
「浩平殿」
国王が穏やかな表情で歩み寄る
「この国は」
「あなたのおかげで新しい一歩を踏み出せます」
浩平は静かに首を横へ振る
「私一人の力じゃありません」
「みんなでつかんだ未来です」
国王は満足そうに頷いた
「その謙虚さも」
「あなたらしい」
――――
グラントが豪快に笑う
「浩平君!」
「また橋が壊れたら来てくれよ!」
浩平も笑う
「今度は壊さないでくださいよ」
「違いねぇ!」
周りから笑いが起こる
エドガーも手を差し出した
「商売を教わった恩は忘れません」
浩平はその手を強く握る
「俺も」
「たくさん勉強になりました」
――――
職人ギルドの仲間たちが
次々と声を掛けてくる
「便利屋さん!」
「元気で!」
「また会いたい!」
浩平は一人ひとりと握手を交わした
短い時間だった
それでも
かけがえのない仲間だった
――――
最後に
魔王が静かに姿を現す
周囲は驚くこともない
もう
人間も魔族も
肩を並べて立っていた
魔王は浩平の前で足を止める
「便利屋」
「お前には借りができた」
浩平は笑う
「お互い様です」
魔王は少しだけ笑みを浮かべる
「今度会う時は」
「酒でも飲みながら話そう」
「約束です」
二人は固く握手を交わした
その握手には
もう敵意はなかった
――――
帰り道
円がそっと浩平へ尋ねる
「寂しい?」
浩平は少し考えてから頷いた
「寂しいよ」
「でも」
「笑顔で別れたい」
円は優しく微笑む
「また会えるかもしれないもんね」
浩平も笑う
「ああ」
「そう信じよう」
王都の鐘が鳴り響く
その音色は
旅立ちを祝福しているようだった




