第九十一話 長い間ありがとうございました
最終章 帰る場所
依頼は終わりました。
戦争は終わり、世界には再び穏やかな時間が流れ始めます。
けれど、どんな依頼にも終わりがあるように、出会いには別れが訪れます。
異世界で築いた絆。
日本で待ち続けていた家族。
二つの世界の間で、浩平が最後に選ぶものとは――。
便利屋として歩んできた旅も、いよいよ終着点です。
最後まで、浩平たちらしい物語を見届けていただけたら幸いです。
戦いが終わった翌日
王都には
久しぶりに穏やかな朝が訪れていた
人々の笑顔が街に戻り
市場には活気があふれている
浩平は円と並んで
古代の工房へ向かっていた
「行くんだね」
円が静かに言う
「ああ」
「ちゃんとお礼を言いたくて」
二人はゆっくりと工房の扉を開けた
――――
老人は
いつもの椅子に腰掛け
穏やかに微笑んでいた
「来ると思っておったよ」
「ただいま戻りました」
浩平は深く頭を下げる
老人は優しく頷く
「見事じゃった」
「お前さんは」
「最後まで便利屋じゃったな」
浩平は少し照れ笑いを浮かべる
「工具箱のおかげですよ」
老人は首を横へ振る
「違う」
「あの工具箱は」
「使う者を選ぶだけ」
「人を助けたのは」
「浩平、お前さん自身じゃ」
その言葉に
浩平は静かに目を閉じた
――――
老人は工具箱へ手を伸ばす
すると
工具箱が静かに光り始めた
浩平はそっと蓋を開く
表示が浮かび上がる
【修復の剣】
【返却を確認しました】
続いて
新しい文字が現れる
【全工具返却済】
【全依頼完了】
浩平は小さく微笑む
「終わったんだな」
表示がゆっくりと消え
最後の文字が現れる
【長い間】
【ありがとうございました】
その瞬間
工具箱を包んでいた光が
ゆっくりと消えていく
もう
二度と光ることはなかった
――――
浩平は
静かに工具箱を抱きしめる
「こちらこそ」
「ありがとう」
「たくさん助けてもらった」
工具箱は何も答えない
けれど
どこか温かく感じた
老人は穏やかに笑う
「役目は終わった」
「これからは」
「お前さん自身の力で歩いていくんじゃ」
浩平は力強く頷いた
「はい」
「これからも」
「便利屋ですから」
――――
工房を出ると
優しい風が吹いた
浩平は肩に工具箱を掛ける
重さは変わらない
けれど
どこか少しだけ軽く感じた
円が微笑む
「行こうか」
「ああ」
二人はゆっくり歩き出す
帰る場所へ向かって




