第八十二話 魔王からの使者
夜の砦に
緊張が走っていた
門の前には
王国軍の兵士たちが並び
静かに武器を構えている
その先には
五人の魔族が立っていた
誰も武器を抜いていない
先頭に立つ男が
ゆっくりと両手を広げる
「我々に戦う意思はない」
「魔王様の使者として参った」
砦の空気がざわめく
隊長が一歩前へ出る
「その証拠は」
男は懐から一通の書状を取り出した
「魔王様から国王陛下への親書だ」
――――
エリオットが慎重に書状を受け取る
封印は確かに魔王軍のものだった
「本物です」
隊長は兵士たちへ命じる
「武器を下ろせ」
ゆっくりと
張り詰めていた空気が和らぐ
――――
浩平は使者へ近付く
「私は浩平」
「便利屋です」
使者は少し驚いたように目を細めた
「噂は聞いている」
「橋を直し」
「街を救い」
「王都で名を上げた人間だな」
浩平は苦笑する
「少し大げさですね」
使者は小さく笑った
「だが」
「魔王様は」
「お前と一度話してみたいと仰っている」
円は思わず浩平を見る
「浩平……」
浩平は静かに頷いた
「ちょうど私も」
「魔王様と話がしたいと思っていました」
――――
使者は安心したように息をつく
「よかった」
「我々も」
「これ以上血を流したくない」
その一言に
砦は静まり返る
王国軍の兵士たちは
思わず顔を見合わせた
魔族も
同じことを願っている
誰も想像していなかった
――――
使者は続ける
「明日の朝」
「国境の中立地帯で」
「魔王様がお待ちです」
「護衛は最小限」
「互いに敵意を見せないこと」
浩平は迷わず答える
「分かりました」
「私が行きます」
隊長が慌てて口を開く
「危険です!」
浩平は穏やかに笑う
「だからこそ」
「私が行く意味があります」
円は浩平の隣へ並ぶ
「私も一緒に行く」
浩平は少しだけ笑う
「もちろん」
「一人じゃ心細いからね」
円も笑顔で頷いた
――――
使者たちは深く一礼し
静かに魔王領へ戻っていく
その背中を見送りながら
浩平は夜空を見上げた
「いよいよだな」
戦うためではない
話し合うための一歩が
静かに踏み出されようとしていた




