第七十七話 埋められなかった時間
夕暮れ
浩平と円は
宿の窓際に並んで座っていた
窓の外では
王都の灯りが一つまた一つと灯り始める
静かな時間が流れる
「少しずつ聞かせてよ」
浩平が静かに口を開く
「みんなのこと」
円は優しく頷いた
「うん」
――――
「駆はね」
「すっかりお父さんになったよ」
浩平は少し笑う
「想像できないな」
「昔は甘えてばかりだったのに」
円も笑った
「今では椿綺を抱っこしながら寝かしつけてるよ」
「仕事から帰ってきても」
「真っ先に椿綺のところへ行くの」
浩平は目を細める
「駆らしいな」
――――
「琴音ちゃんも本当によく頑張ってる」
「まだ若いのに」
「毎日一生懸命」
「椿綺を育ててる」
「私も助けてもらってばかり」
浩平は静かに頷く
「ありがとうって伝えたいな」
「きっと喜ぶよ」
円は微笑んだ
――――
「椿綺はね」
「駆にそっくり」
浩平は少し笑う
「駆に?」
「うん」
「笑った顔も」
「寝癖も」
「困った時に頭をかくところまで」
思わず二人で笑ってしまう
「そんなところまで似るのか」
「本当にそっくり」
円は笑いながら頷く
「毎日見てる私が言うんだから間違いないよ」
浩平は写真を見つめながら微笑んだ
「そうか」
「駆も、ちゃんと父親になったんだな」
円は優しく頷く
「うん」
「すごく頑張ってるよ」
――――
しばらくして
円の表情が少しだけ優しくなる
「お父さんもお母さんも元気」
「浩ちゃんに会ったらよろしくって」
浩平は少し照れながら笑う
「お義母さんらしいな」
「飴ももらったし」
「うん」
「ちゃんと渡せてよかった」
――――
「浩平」
円が静かに浩平を見る
「みんな待ってるよ」
「急がなくていい」
「でも」
「みんな待ってる」
浩平はゆっくり頷いた
「帰りたいな」
その一言には
今まで押し込めてきた想いが詰まっていた
円は何も言わず
そっと浩平の手を握る
「帰ろう」
「みんなのところへ」
浩平も優しく握り返す
「うん」
その返事は
今までで一番穏やかな笑顔だった
窓の外では
満月が静かに王都を照らしていた
遠く離れた世界も
きっと同じ月が輝いている




