第七十八話 新たな予感
翌朝
浩平と円は
王都の街をゆっくり歩いていた
市場には活気が戻り
商人たちの元気な声が響いている
「本当に賑やかな街だね」
円は楽しそうに辺りを見回した
「俺も最初は驚いたよ」
浩平は笑いながら答える
パン屋の主人が二人に気付き
大きく手を振った
「便利屋さん!」
「奥さん!」
「焼きたてだ!」
紙袋いっぱいのパンを渡され
二人は思わず笑顔になる
「ありがとうございます」
「代金はいりません!」
「この前のお礼です!」
浩平は困ったように笑う
「毎回そう言われると」
「商売にならないですよ」
店先は笑い声に包まれた
――――
職人ギルドへ立ち寄ると
グラントが腕を組んで立っていた
「円さん」
「王都には慣れたか?」
「はい」
「皆さんが優しくしてくださるので」
グラントは満足そうに頷く
「浩平君は」
「誰とでも仲良くなるからな」
「そのおかげで」
「わしらも助けられた」
浩平は照れくさそうに頭をかいた
――――
ギルドを出ると
門番たちが慌ただしく走っていく姿が見えた
「何かあったのかな」
円が首を傾げる
近くにいた商人が小声で話している
「国境の方が騒がしいらしい」
「魔族が動いたとか」
「いや」
「ただの噂だろ」
人々は不安そうな表情を浮かべながらも
いつもの生活を続けていた
浩平は静かに空を見上げる
「何もなければいいけど」
――――
夕方
二人は古代の工房を訪れた
老人は
いつもの椅子へ腰掛け
穏やかな笑みを浮かべている
「楽しんでおるようじゃな」
「はい」
「円にも」
「この世界を見せられて良かったです」
老人は静かに頷く
「それでよい」
「人は」
「守りたいものがあるから前へ進める」
浩平はその言葉を胸に刻む
「守りたいもの……」
老人はそれ以上何も語らなかった
――――
工房を出ようとした時だった
肩に掛けた工具箱が
小さく震える
カタッ
浩平は足を止めた
工具箱が淡く光る
ゆっくりと蓋が開き
一枚の依頼書が浮かび上がる
【新しい依頼があります】
表示されたのは
それだけだった
依頼内容は
まだ白紙のまま
「何だろう」
円が不思議そうに覗き込む
浩平は静かに工具箱を閉じた
「きっと」
「近いうちに分かるよ」
二人は工房を後にする
夕焼けに染まる王都を歩きながら
浩平は胸の奥で
何かが動き始めたことを感じていた
それが
新たな旅の始まりになることを
まだ誰も知らなかった




