第六十九話 約束の扉
街道の復旧を終えた翌日
浩平は再び古代の工房を訪れていた
工具箱は静かに光り
迷うことなく
工房の奥へ浩平を導く
あの白い鏡の前だった
鏡は以前と違い
柔らかな光を放っている
「来たようじゃな」
老人は鏡の前で待っていた
「約束は果たしたようじゃの」
浩平は静かに頷く
「皆さんに助けられました」
「私一人ではできませんでした」
老人は嬉しそうに笑う
「その答えを聞きたかった」
――――
老人は鏡へ手をかざす
白い光がゆっくり揺れる
「便利屋とは」
「物を直す者ではない」
「人の暮らしを守り」
「人と人をつなぐ者じゃ」
浩平は黙って耳を傾ける
「お主は」
「この世界で多くの者と絆を結んだ」
「だからこそ」
「最後の依頼を受ける資格を得た」
「資格……」
老人はゆっくり頷いた
「力ではない」
「優しさでもない」
「積み重ねた信頼じゃ」
その言葉を聞き
浩平は今まで出会ってきた人たちの顔を思い浮かべた
商人エドガー
グラント
エリオット
パン屋の主人
家具職人
門番
みんなの笑顔が
胸の中によみがえる
――――
工具箱が眩しく光る
白紙の依頼書が浮かび上がる
【特別依頼】
依頼内容
大切な人を迎えに行ってください
依頼人
???
報酬
あなたが本当に望むもの
その下へ
新たな文字が浮かび上がる
【準備完了】
老人は鏡へ向き直る
「浩平」
「この扉は」
「会いたいだけでは開かぬ」
「互いに会いたいと願った時だけ開く」
浩平は目を見開いた
「互いに……」
「そうじゃ」
「一人の願いだけでは届かぬ」
「二人の想いが重なった時」
「初めて道はつながる」
静かな工房に
沈黙が流れる
浩平は小さく息を吐いた
「それなら」
「待ちます」
「相手の気持ちも大切ですから」
老人は満足そうに微笑んだ
「それでこそ」
「便利屋じゃ」
――――
その瞬間
白い鏡が静かに揺らぎ始める
光の向こうに
ぼんやりと景色が映る
見覚えのある住宅街
夕暮れの空
そして
一軒の家
浩平は思わず一歩踏み出した
「……!」
しかし
景色はすぐに消えてしまう
鏡は再び静寂を取り戻した
老人は静かに言う
「時は近い」
「準備をしておくがよい」
浩平は鏡を見つめたまま
小さく頷いた
遠く離れた場所で
誰かもまた
同じ空を見上げていた




