第六十五話 最後の試練
老人は静かに歩き出した
浩平もその後を追う
工房の一番奥
今まで気付かなかった扉の前で
老人は立ち止まる
扉には
工具箱と同じ紋章が刻まれていた
「この先が」
「最後の試練じゃ」
浩平は古びた鍵を取り出す
ゆっくりと鍵穴へ差し込む
カチッ
静かな音が響く
重い扉が
ゆっくりと開いていく
――――
部屋の中央には
大きな鏡が立っていた
鏡と言っても
姿は映らない
白く輝く光だけが
静かに揺れている
「これは」
浩平が近付こうとした瞬間
老人が手を上げる
「まだじゃ」
「その鏡は道ではない」
「答えを映す鏡じゃ」
浩平は足を止めた
「答え……ですか」
老人は頷く
「便利屋とは何じゃ」
突然の問いだった
浩平は少し考える
「困っている人を助ける仕事です」
「それだけか」
「それだけです」
老人は静かに笑う
「ならば」
「今まで受けた依頼の中で」
「断った依頼はあったか」
浩平は首を横へ振る
「ありません」
「どうしてじゃ」
「困っている人がいたからです」
「報酬の多い少ないも関係ありません」
「魔物でも」
「子どもでも」
「王様でも」
「困っているなら助けます」
老人は満足そうに目を閉じた
「それでよい」
――――
その瞬間
白い鏡が強く輝き始める
工具箱も同じように光を放つ
【最終確認完了】
【特別依頼を更新します】
白紙の依頼書が
再び文字を浮かび上がらせる
【特別依頼】
依頼内容
大切な人を迎えに行ってください
条件
この世界で受けた依頼を最後までやり遂げること
依頼人
???
報酬
あなたが本当に望むもの
浩平は静かに依頼書を見つめる
「まだ終わってないんですね」
老人は穏やかに頷く
「そうじゃ」
「便利屋は」
「仕事の途中で帰らぬ」
「最後まで責任を持つ」
浩平は自然と笑みを浮かべた
「それなら」
「やることは一つですね」
老人も笑う
「そうじゃ」
「最後の依頼を終えた時」
「お主は本当に帰るべき場所を知ることになる」
――――
工房を出る浩平の足取りは軽かった
答えはまだ分からない
それでも
迷いは消えていた
工具箱を肩へ掛け
浩平は青空を見上げる
「よし」
「まずは目の前の依頼だ」
便利屋として
今日もまた
一歩を踏み出すのだった




