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異世界便利屋~魔王討伐から小さな依頼まで承ります~  作者: 椿綺
第六章 帰るための鍵
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第六十三話 受け継がれる仕事

石壁の向こうには


静かな部屋が広がっていた


中央には大きな作業台


壁際には工具棚


長い年月を経ても


不思議なほど綺麗なまま残されている


浩平はゆっくり部屋へ足を踏み入れた


「ここが……」


工具箱が静かに光る


【継承の間】


表示はすぐに消えた


――――


作業台の上には


一冊の分厚い本が置かれていた


革で装丁された古い本


浩平が手を伸ばす


その瞬間


表紙がひとりでに開いた


文字が浮かび上がる


しかし


読むことはできない


工具箱が淡く光る


すると


古代文字が少しずつ読める文字へ変わっていく


浩平は静かに読み始めた


『便利屋とは


誰かの暮らしを守る者』


『名誉のためではない』


『富のためでもない』


『困っている人がいるなら


ただ手を差し伸べる』


浩平は小さく息をのむ


そこに書かれていたのは


今まで自分が続けてきたことだった


――――


ページをめくる


そこには


歴代の便利屋たちの記録が残されていた


橋を直した者


井戸を掘った者


洪水で壊れた村を復旧した者


冬を越える薪小屋を建てた者


誰一人として


魔王を倒したとは書かれていない


英雄になったとも書かれていない


それでも


最後には必ず同じ一文が添えられていた


『ありがとう』


浩平は思わず笑みを浮かべる


「これで十分ですよね」


その言葉に応えるように


工具箱が優しく光った


――――


最後のページを開く


そこだけは白紙だった


しばらく見つめていると


一行だけ文字が浮かぶ


『次はあなたが記す番です』


浩平は驚きながら本を閉じる


「俺が……」


歴代便利屋の続き


その一ページを


自分が書いていく


胸の奥が少し熱くなった


――――


その時


部屋の奥から足音が響く


コツ……


コツ……


浩平は振り返る


暗闇の中から現れたのは


ローブ姿の老人だった


「よくここまで来たの」


老人は穏やかに微笑む


「ここは便利屋の始まりの場所」


「そして」


「お主が最後の継承者となる場所じゃ」


浩平は静かに老人を見つめる


「最後……ですか」


老人は小さく頷いた


「その意味も


間もなく分かるじゃろう」


静かな工房に


再び沈黙が流れた


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