第六十話 特別依頼の始まり
朝
浩平は工具箱を見つめていた
昨日表示された
【第三段階まで あと一つ】
その文字は
もう消えている
「あと一つか」
浩平は静かに工具箱を閉じ
宿を後にした
――――
王都を歩く
市場では商人たちが声を張り上げ
子どもたちは笑いながら走り回る
修理した噴水も
変わらず水を吹き上げていた
橋も
時計塔も
人々の暮らしの中へ溶け込んでいる
浩平は思わず笑みを浮かべた
「良かった」
その一言だけが
自然と口をついた
――――
「便利屋さん」
振り返ると
今まで助けてきた人たちが立っていた
家具職人
商人エドガー
パン屋の主人
王城管理官エリオット
職人ギルド長グラント
「橋のおかげで助かったよ」
「時計塔は今日も正確に動いてる」
「噴水には子どもたちが戻ってきた」
一人また一人と
感謝の言葉を掛けてくれる
浩平は照れくさそうに頭をかいた
「皆さんが協力してくれたからですよ」
その瞬間だった
工具箱が静かに光る
【第四段階を確認しました】
浩平は立ち止まる
表示はすぐに変わる
【特別依頼を開始します】
周囲の人には見えていない
浩平だけが
静かにその文字を見つめていた
やがて
白紙の依頼書が
ゆっくりと光を放つ
文字が一行ずつ浮かび上がる
【特別依頼】
依頼内容
大切な人を迎えに行ってください
依頼人
???
報酬
あなたが本当に望むもの
受注しますか?
YES
浩平は依頼書を見つめたまま
動けなかった
「大切な人……」
頭に浮かぶのは
あの夢
優しく響いた声
そして
忘れたことのない笑顔
浩平は静かに目を閉じる
「……分かりました」
そう呟くと
迷うことなく
依頼書へ手を伸ばした
その瞬間
工具箱が
今までで一番強く輝く
眩しい光が辺りを包み込む
そして
工具箱の底から
一つの古びた鍵が現れた
浩平はそっと手に取る
見たことのない形
それでも
不思議と確信していた
「この鍵が」
「始まりなんだな」
王都の空を
一羽の白い鳥が飛んでいく
新たな物語は
静かに幕を開けようとしていた
ここまで『異世界便利屋~魔王討伐から小さな依頼まで承ります~』をお読みいただき、本当にありがとうございます。
第五章では、浩平が王都で便利屋として少しずつ認められていく姿を描いてきました。
時計塔や噴水、橋の復旧など、多くの人との出会いを通して、浩平自身も少しずつ成長してきたように思います。
そして物語は、ついに「特別依頼」という新たな局面へ進むことになりました。
この依頼が何を意味するのか。
工具箱の秘密とは何なのか。
少しずつ明らかになっていきますので、これからも浩平の旅を見守っていただけると嬉しいです。
次章もどうぞよろしくお願いいたします。




