第五十七話 導かれる先
朝
浩平は宿の部屋で
静かに白紙の依頼書を見つめていた
昨夜見た
【特別依頼】
その文字は
もうどこにも残っていない
ただの白い紙へ戻っていた
「やっぱり見間違いじゃなかったよな」
小さく呟き
依頼書を引き出しへ戻す
その時だった
工具箱が淡く光る
【目的地を表示します】
「目的地」
浩平は思わず声を漏らした
工具箱の蓋の裏へ
細い光の線が浮かび上がる
それは王都の地図だった
一本の光が
王都の北門を指している
「北門……?」
――――
浩平は工具箱を肩へ掛け
王都の北門へ向かった
街を抜け
門をくぐる
少し歩いた先には
古い石碑が一つ立っていた
周囲には誰もいない
風だけが静かに吹いている
「ここか」
浩平が石碑へ近付く
その瞬間
「来たようじゃな」
後ろから
聞き慣れた声がした
振り返ると
ローブ姿の老人が立っていた
「あなたでしたか」
老人は笑って頷く
「工具箱は正しい道を示したようじゃ」
「これは何なんですか」
浩平が尋ねる
老人は石碑へ手を添えた
「ここは始まりの場所」
「そして終わりの場所でもある」
浩平は首を傾げる
意味が分からない
老人は浩平を見つめ
静かに続けた
「便利屋よ」
「お主は今まで」
「人の壊れた物を直してきた」
「はい」
「では」
「壊れた絆は直せると思うか」
浩平は少し考え
静かに答えた
「直せると思います」
「時間は掛かっても」
「互いに諦めなければ」
老人は満足そうに笑った
「その答えで十分じゃ」
――――
老人は石碑を軽く叩く
すると
石碑に淡い光が走った
古い文字が浮かび上がる
しかし
浩平には読むことができない
「これは……」
老人は首を横に振る
「まだ早い」
「時が来れば」
「お主にも読めるようになる」
風が吹く
次の瞬間
老人の姿は消えていた
「またか」
浩平は苦笑する
石碑へもう一度目を向ける
すると
工具箱が静かに光る
【第一段階を確認しました】
表示はそれだけだった
浩平は石碑へ一礼すると
王都への道をゆっくり歩き始める
青く澄んだ空には
白い雲が静かに流れていた




