第五十五話 特別依頼
朝
浩平は目を覚ますと
真っ先に工具箱へ目を向けた
昨夜
少しだけ開いた引き出し
夢ではなかった
机の上には
今もわずかに開いたままの引き出しがある
浩平はゆっくり近付く
「開くのか……」
恐る恐る手を掛ける
抵抗はなかった
静かに引き出しが開いていく
中に入っていたのは
一枚の白い紙だった
何も書かれていない
ただの白紙
「依頼書……?」
手に取ったその瞬間だった
工具箱が淡く光り始める
白紙だった紙に
ゆっくりと文字が浮かび上がる
【特別依頼】
浩平は思わず息をのんだ
今まで見たことのない表示だった
続いて
文字が一行ずつ現れる
【依頼内容】
大切な人を迎える準備をしてください
浩平は目を見開く
「大切な人……?」
その下には
まだ何も書かれていない
依頼人も
報酬も
表示されない
しばらくすると
文字は静かに消えていった
白紙だけが残る
「迎える準備……」
浩平は小さく呟く
誰のことなのか
まったく思い当たらない
それでも
胸の奥が少しだけ温かくなった
――――
その日
浩平は仕事へ向かった
荷物運びを手伝い
壊れた椅子を直し
困っていた商人の荷車を修理する
いつもと変わらない一日
しかし
ふとした瞬間に
白紙の依頼書が頭をよぎる
「大切な人……か」
自然と空を見上げる
青空は
どこまでも広がっていた
――――
夕方
宿へ戻ると
工具箱がもう一度光る
浩平は静かに蓋を開く
しかし
白紙の依頼書は何も変わらない
その代わり
工具箱の奥から
優しい光が漏れていた
まるで
何かを待っているように
浩平は依頼書をそっと引き出しへ戻す
「急がなくていいってことか」
そう呟くと
静かに工具箱を閉じた
窓の外では
夕焼けに染まる王都の空を
一羽の白い鳥がゆっくりと飛んでいた




