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異世界便利屋~魔王討伐から小さな依頼まで承ります~  作者: 椿綺
第五章 王都エルディア
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第五十二話 開かない引き出し

翌朝


浩平は宿の一室で工具箱を開いていた


「昨日の言葉……」


老人の言葉が頭から離れない


『懐かしい夢を見なんだか』


『忘れるでない』


浩平は小さく息を吐く


「どういう意味なんだろう」


工具箱の中には


これまで集めてきた工具が整然と並んでいた


木工用工具


時計修理用工具


水路点検具


どれも依頼を終えるたびに増えてきた大切な道具だ


ふと


工具箱の一番奥へ目がいく


今まで気にも留めなかった小さな引き出し


「こんなの……あったかな」


浩平は取っ手へ手を掛ける


しかし


カチャ


開かない


力を入れても


びくともしない


「壊れてる?」


工具箱を持ち上げ


裏側まで確認する


傷一つない


鍵穴も見当たらない


その時だった


工具箱が淡く光る


【現在は開きません】


表示は


それだけだった


「現在は……?」


浩平は首を傾げる


『開きません』


ではない


『現在は』


その一言だけが


妙に気になった


――――


宿を出ると


いつもの王都の朝が始まっていた


市場には人が集まり


露店からは焼きたてのパンの香りが漂う


「便利屋さん!」


パン屋の主人が声を掛ける


「昨日は噴水、助かったよ!」


「水が出るようになって、お客さんも戻ってきた」


「それは良かったです」


浩平は笑顔で答える


「また困ったことがあったら頼むよ」


「はい」


短いやり取りだったが


その言葉が少し嬉しかった


便利屋として


少しずつ王都に馴染み始めている


――――


夕方


職人ギルドへ顔を出すと


グラントが書類を整理していた


「お、浩平君」


「今日は珍しく依頼が入っていないな」


「たまにはこんな日もあります」


浩平は笑う


「道具の手入れでもしようかと」


グラントは満足そうに頷いた


「いい職人ほど」


「道具を大切にする」


「君は便利屋だが、その考えは同じだな」


浩平は工具箱へ視線を落とす


「はい」


「この工具箱には、何度も助けられてきました」


そう言って


そっと蓋を撫でる


その瞬間


誰にも気付かれないほど小さく


工具箱が温かく光った


浩平だけが


そのぬくもりを感じていた


「……気のせいかな」


小さく呟き


工具箱を肩へ掛ける


王都の夕焼けは


今日も静かに街を染めていた


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