第四十五話 止まった時を動かす
王城の時計塔
浩平は振り子の前に立ったまま
静かに考えていた
「壊れているわけじゃない」
その一言に
グラントが首を傾げる
「どういうことだ?」
「歯車も」
「軸も」
「振り子も無事です」
「それなのに止まっている」
浩平は振り子を軽く押した
ゆっくり揺れる
しかし
途中で止まってしまう
「やっぱり」
浩平は塔の窓を見上げた
大きく開かれた窓から
風が吹き込んでいる
「風……?」
エリオットも窓を見る
「何か関係があるのですか?」
浩平は静かに頷いた
「振り子は、とても繊細です」
「強い風を受け続けると
本来の動きが乱されます」
「昨日は嵐でしたよね」
エリオットは思い出したように頷く
「確かに
かなり強い風でした」
「振り子を支える軸が
ほんのわずかにズレています」
「それが原因です」
――――
工具箱を開く
中には
精密レンチ
芯出し治具
水平測定器
浩平は慎重に軸を調整する
何度も確認しながら
少しずつ元の位置へ戻していく
最後に
振り子へ静かに手を添えた
「お願いします」
そっと手を離す
コッ……
コッ……
コッ……
振り子は規則正しく揺れ始めた
続いて
巨大な歯車がゆっくり動き出す
ギィ……
ガチャン……
塔の中へ
機械音が響いた
「動いた!」
職人たちから歓声が上がる
時計塔は再び
正しい時を刻み始めた
――――
しばらくすると
王都中へ鐘の音が鳴り響く
ゴーン……
ゴーン……
その音を聞いた人々が
空を見上げる
「時計塔が直ったぞ!」
「良かった!」
王都の日常が
静かに戻っていく
――――
工具箱が静かに光る
【依頼完了】
報酬を受け取りました
報酬
金貨一枚
『精密調整』を習得しました
浩平は表示を確認し
そっと工具箱を閉じた
その時
エリオットが深く頭を下げる
「ありがとうございました」
「これで王都の時間が止まらずに済みます」
浩平は少し照れながら笑う
「時計を直しただけです」
グラントは苦笑した
「君はいつもそう言う」
「だが」
「君が直したのは時計だけじゃない」
「王都の人たちの安心も取り戻したんだ」
浩平は返す言葉が見つからず
少しだけ頭をかいた
その様子を見て
職人たちは自然と笑顔になる
王都での「便利屋」の名は
少しずつ広まり始めていた




