第三十七話 崩れゆく峠道
王都まで
あと四日
浩平は山あいの街道を歩いていた
ここを越えれば
王都へ続く大きな平原が広がる
商人ダグラスとも別れ
今は数人の旅人と同じ道を進んでいた
「景色はいいですね」
浩平が見上げると
切り立った崖の上を風が吹き抜けていく
その時だった
ドォン……
遠くで鈍い音が響いた
「今の音は?」
旅人たちが足を止める
再び
ゴゴゴゴ……
地面がわずかに揺れた
「落石だ!」
前方から叫び声が聞こえる
浩平は駆け出した
――――
峠道へ着くと
巨大な岩が街道を塞いでいた
馬車が一台
岩の向こう側で立ち往生している
さらに
崖の上では小石が転がり続けていた
「まだ崩れる……」
浩平は崖を見上げる
その瞬間だった
【依頼発生】
依頼内容 旅人を安全な場所へ避難させてください
依頼人 街道を行く人々
報酬 銀貨八十枚
受注しますか?
YES/YES
「お受けします」
――――
「皆さん!」
「岩から離れてください!」
浩平の声に
旅人たちは一斉に動く
その時
「助けて!」
馬車の方から少女の声が響いた
見ると
車輪が岩に挟まれ
動けなくなっている
御者も必死に押しているが
びくともしない
その直後だった
ゴゴゴゴゴ……
崖の上から
さらに大きな岩が動き始めた
旅人たちの顔から血の気が引く
「間に合わない!」
誰かが叫ぶ
浩平は静かに工具箱を下ろした
「大丈夫」
その一言だけ残し
崖へ向かって走り出した
次の瞬間
旅人たちの視界から
浩平の姿が消えた
「……速い!」
崖を駆け上がる
転がり始めた巨岩へ
一気に間合いを詰める
そして
右手を添えた
ドンッ!
鈍い音が山へ響く
巨大な岩は
まるで時間が止まったように動きを止めた
旅人たちは息を呑む
「止めた……?」
浩平は岩の向きを静かに変える
次の瞬間
ゴォォォン!
岩は街道ではなく
誰もいない谷底へ転がり落ちていった
轟音が山へ響く
やがて静寂が戻る
浩平は何事もなかったように崖を下りる
「怪我はありませんか?」
最初に掛けた言葉は
やはりそれだった
旅人たちは
ただ呆然と浩平を見つめるしかなかった
その様子を
崖の上から
一人のローブ姿の老人が静かに見守っていた
「……力ではない」
「守るために使う」
老人は満足そうに頷く
「やはり、お主を選んで正解じゃった」
そう呟くと
風とともに姿を消した
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峠道には
再び静かな風が吹き始める
しかし浩平は気付いていなかった
山のさらに奥で
その一部始終を見ていた者が
もう一人いたことを――




