第三十六話 やり直せる場所
山小屋には
重たい空気が流れていた
ガレスたちは俯き
子どもたちは不安そうに大人を見つめている
浩平はゆっくり口を開いた
「皆さんに聞きたいことがあります」
ガレスが顔を上げる
「何だ」
「橋を造ったことはありますか?」
「……橋?」
思いがけない質問だった
「村にいた頃は」
「道を直したり」
「柵を作ったりはしていた」
別の男も頷く
「俺は木こりだった」
「私は石工です」
次々と声が上がる
浩平は静かに笑った
「十分です」
――――
ダグラスが首を傾げる
「どういうことだ?」
「橋です」
「この先の街道には
まだ本格的な橋が必要です」
「あの仮設橋では
長く使えません」
ガレスたちは顔を見合わせる
浩平は続けた
「橋を造る人手が足りません」
「仕事として手伝ってもらえませんか」
その場が静まり返る
「……俺たちを雇うのか?」
「はい」
「働いて報酬をもらう」
「そのお金で生活する」
「それが一番いいと思います」
――――
ダグラスは腕を組み
しばらく考え込んだ
やがて
小さく笑う
「面白い」
「王都へ着いたら
土木ギルドに話を通してみよう」
「橋の復旧なら
人手はいくらあっても困らん」
ガレスは驚いた顔で立ち尽くす
「本当に……」
「俺たちに
そんな資格があるのか」
「資格はこれから取り戻せばいい」
浩平は穏やかに答えた
「過ちは消えません」
「でも」
「これから何をするかは
自分で決められます」
――――
子どもたちの一人が
ガレスの服を掴む
「お父さん」
「もう悪いことしない?」
ガレスはしゃがみ込み
娘を強く抱きしめた
「ああ」
「もうしない」
その目には
涙が浮かんでいた
――――
数日後
街道では
新しい橋の建設が始まっていた
木を運ぶ者
石を積む者
杭を打つ者
その中には
ガレスたちの姿もあった
汗を流しながら働く表情は
もう山賊ではない
一人の職人だった
ダグラスが笑う
「便利屋さん」
「荷馬車だけじゃなく
人の人生まで直しちまったな」
浩平は苦笑した
「私は壊れたものを
元に戻しただけですよ」
その時
工具箱が静かに光る
【依頼完了】
報酬を受け取りました
特別報酬
『信頼』を獲得しました
浩平は表示を見つめる
「信頼……?」
初めて見る報酬だった
工具箱は何も語らない
ただ静かに
朝日に照らされていた
浩平は工具箱を肩に掛ける
「さて」
「次はどんな依頼だろうな」
そう呟き
再び王都への街道を歩き始めるのだった




