第三十五話 山賊の事情
小屋の前では
子どもたちが夢中でパンを食べていた
久しぶりの食事だったのだろう
誰も言葉を発さず
ただ静かに口へ運んでいる
その様子を見て
商人ダグラスは目を見開いた
「まさか……」
その時だった
「動くな!」
鋭い声が響く
茂みの中から
剣や弓を持った男たちが姿を現した
五人
荷馬車を奪った男たちだった
「ここまで追ってきたか」
先頭の男が浩平たちを睨む
浩平は両手を軽く上げた
「戦いに来たわけではありません」
「荷馬車を返せと言いに来たんだろ!」
男が剣を構える
浩平は首を横に振った
「まず話を聞かせてください」
「話だと?」
「子どもたちがいる理由を」
その言葉に
男たちの表情が揺れた
――――
しばらく沈黙が続く
やがて
一人の女性が小屋から出てきた
腕には幼い子どもを抱いている
「もう隠さなくていいよ」
女性は静かに言った
「この人たちは気付いてる」
先頭の男は大きく息を吐いた
剣を下ろす
「……俺はガレス」
「元は開拓村で暮らしていた」
「去年の大雨で村が流された」
「仕事を探した」
「だが見つからなかった」
「子どもたちに食べさせる物もなくなった」
男は拳を握る
「だから……」
「荷馬車を襲った」
商人ダグラスは黙って話を聞いていた
――――
浩平は荷馬車へ歩み寄る
荷台を確認する
袋は開けられていたが
食料はほとんど残っていた
「必要な分しか持っていかなかったんですね」
ガレスは黙って頷く
「全部奪えば」
「俺たちも生きられない」
「商人も困る」
「それくらいは分かってる」
浩平は静かに笑った
「あなたは本当の山賊じゃない」
「生活に困って道を間違えただけです」
その言葉に
ガレスは顔を伏せた
「そうかもしれない」
「でも」
「やったことは変わらない」
――――
その時
ダグラスがゆっくり口を開いた
「食料は返してもらう」
ガレスは頷いた
「当然だ」
「だが……」
ダグラスは子どもたちを見た
「事情も分かった」
「俺一人では決められない」
「王都へ着いたらギルドへ相談しよう」
浩平も頷く
「その方がいいですね」
その時だった
工具箱が静かに光る
【依頼更新】
依頼内容
荷馬車を取り戻し
すべての人が前へ進める方法を見つけてください
浩平は表示を見つめ
小さく息を吐いた
「なるほど」
「まだ終わりじゃない」
工具箱が示したのは
荷馬車を取り戻すことではなく
人を救うことだった
浩平はガレスたちへ向き直る
「皆さん」
「少しだけ、私の話を聞いてもらえませんか」
その一言で
山奥の空気が静かに変わり始めた




