第三十四話 奪われた荷馬車
仮設橋を渡った旅人たちは
それぞれの目的地へ向けて歩き始めた
浩平もまた
王都への街道を進んでいた
空は青く
街道には穏やかな風が吹いている
「今日は順調ですね」
そう呟いた時だった
「助けてくれ!」
前方から男が駆けてくる
息を切らし
何度も振り返りながら叫んでいた
「荷馬車が!」
「荷馬車を奪われた!」
浩平は足を止める
「落ち着いてください」
「何があったんですか?」
男は肩で息をしながら答えた
「山道へ入ったところで
突然五人組に囲まれたんだ」
「武器を向けられて
荷馬車を持っていかれた」
その瞬間だった
【依頼発生】
依頼内容 荷馬車を取り戻してください
依頼人 商人 ダグラス
報酬 銀貨六十枚
受注しますか?
YES/YES
「お受けします」
浩平は静かに頷いた
「怪我はありませんか?」
「私は大丈夫だ」
「御者も逃げられた」
「それなら良かった」
浩平は工具箱を肩に掛ける
「荷物は何を運んでいたんです?」
「食料だ」
「王都へ届ける予定だった」
浩平は少し考え込む
「食料……」
その言葉が少し引っ掛かった
高価な宝石でも
武器でもない
奪われたのは
保存食や小麦袋ばかりだった
「案内してください」
二人は山道へ向かう
――――
現場へ着くと
荷馬車の車輪跡が残っていた
工具箱が静かに光る
【追跡を開始します】
浩平はしゃがみ込み
轍を確認する
「急いで逃げた様子はありませんね」
「え?」
商人が驚く
「普通なら
もっと乱れた跡になります」
「これは……」
「ゆっくり進んでいます」
浩平は立ち上がる
「追い付きます」
――――
山道を進むこと一時間
遠くから子どもの泣き声が聞こえた
浩平は足を止める
「子ども……?」
商人も耳を澄ませる
「山賊じゃないのか?」
浩平は答えなかった
静かに工具箱へ手を添え
泣き声のする方へ歩き出す
木々の隙間から見えたのは
粗末な小屋が並ぶ小さな集落
そして
荷馬車の前で
空腹そうにパンを分け合う子どもたちの姿だった
浩平はその光景を見つめたまま
静かに息を吐く
「……そういうことですか」
その言葉の意味を
商人はまだ理解していなかった




