第三話 壊れた荷車を直してほしい
翌朝。
浩平は宿の食堂で朝食を食べていた。
焼きたてのパン。
野菜のスープ。
そして見たことのない果物。
「異世界にしては普通だな」
そう呟きながらパンをかじる。
すると。
ドタドタドタッ!
勢いよく宿の扉が開いた。
「便利屋はどこだ!?」
食堂中の視線が集まる。
浩平はパンを持ったまま手を挙げた。
「一応、俺です」
男は一直線に駆け寄ってきた。
日に焼けた肌。
大きな荷物袋。
どうやら商人らしい。
「頼む! 助けてくれ!」
「とりあえず落ち着いてください」
「荷車が壊れたんだ!」
――――
話を聞くと。
村へ商品を運ぶ途中で車輪が壊れたらしい。
このままでは積み荷を運べない。
近くに修理できる職人もいない。
そこで村人から浩平の話を聞き、飛んできたのだという。
「なるほど」
浩平は頷いた。
その瞬間。
目の前に文字が浮かぶ。
【依頼発生】
依頼内容:荷車の修理
依頼人:行商人ガルド
報酬:銀貨三枚
受注しますか?
YES/YES
「だからYESしかないのか」
思わず口に出る。
ガルドが首を傾げた。
「何か言ったか?」
「いえ、独り言です」
浩平はYESに触れた。
すると。
大量の知識が頭に流れ込んでくる。
木材加工。
車輪構造。
応急補修技術。
強度計算。
「うわっ……」
少しふらつく。
だが理解できる。
どう直せばいいのかが。
「現場まで案内してください」
――――
荷車は村から少し離れた街道脇にあった。
車輪の一部が割れている。
ガルドは頭を抱えた。
「どうだ?」
浩平はしゃがみ込む。
壊れた箇所を確認する。
そして。
「直せます」
「本当か!?」
「たぶん一時間くらいで」
ガルドは固まった。
「一時間?」
どうやら普通ではないらしい。
――――
浩平は工具箱を開く。
すると必要な道具が自然と目に入った。
ノコギリ。
金具。
木槌。
見覚えはない。
だが使い方は分かる。
近くの木材を加工し。
割れた部分を補強する。
歪みを調整し。
車輪を組み直す。
最後に全体を確認する。
「よし」
荷車を押す。
ギシギシという音はしない。
滑らかに動いた。
「終わりました」
「……は?」
ガルドは荷車を見る。
押す。
転がる。
もう一度押す。
問題ない。
完全に直っていた。
「す、すげぇ……」
思わず漏れた声。
浩平は頭をかいた。
「そんな大したことじゃ」
「大したことだ!」
ガルドは叫んだ。
「町の職人でも半日は掛かるぞ!」
――――
村へ戻る頃には。
噂はすでに広がっていた。
「荷車を直したらしい」
「しかも一時間で」
「本当か?」
村人たちが話している。
浩平は少し居心地が悪かった。
「目立ちすぎたかな」
その時だった。
一人の老人が近づいてくる。
「便利屋さん」
「はい?」
「村の井戸を見てくれんか」
「井戸?」
「最近調子が悪くてな」
さらに別の村人も声を掛ける。
「うちの倉庫の鍵も頼みたい」
「畑の水車も見てほしい」
次々に依頼が集まる。
浩平は苦笑した。
「便利屋って忙しいんだな……」
その瞬間。
目の前に新しい文字が現れた。
【特別依頼発生】
依頼内容:???
依頼人:???
報酬:???
受注条件を満たしていません
「……ん?」
初めて見る表示だった。
そして表示は一瞬で消えた。
浩平は気づいていない。
自分の便利屋としての仕事が。
ただの修理屋では終わらないことを。
まだ知らなかった。




