第二話 便利屋、初めての仕事をする
村へ戻る道。
浩平は腕の中の猫を見た。
「……結構大変だったな」
返事をするように、
「ニャー」
と鳴く。
「元気そうで何よりだ」
森の中で魔物に襲われていたとは思えないほど、猫は落ち着いている。
そして。
「やっと戻ってきたか」
村の入口では、門番が驚いた顔をしていた。
「本当に一人で森に行ったのか?」
「まあ、猫を探すだけだったので」
「いやいや、あそこには魔物がいるんだぞ?」
門番は呆れたように言う。
だが浩平は肩をすくめた。
「困っている人がいたので」
その言葉に、門番は少し黙った。
「……変わった奴だな」
――――
広場に戻ると、少女が走ってきた。
「ミーシャ!」
腕の中の猫を見るなり、少女は嬉しそうに抱き上げる。
「よかった……本当によかった」
その顔を見て、浩平も安心した。
「怪我はないみたいだよ」
「ありがとう!」
少女は何度も頭を下げる。
「お兄さん、名前は?」
「浩平」
「コウヘイさん?」
「そう」
「コウヘイさんは冒険者なの?」
浩平は少し考えた。
「いや、便利屋」
「便利屋?」
少女が首を傾げる。
やっぱり知られていないらしい。
「困っている人を助ける仕事かな」
そう答えると、
少女は笑った。
「じゃあ、すごい仕事だね」
――――
その日の夜。
浩平は村の宿を借りることになった。
「お金は……ないよな」
異世界に来た時、持っていたものは服とスマホくらい。
スマホは当然使えない。
「どうするかな」
悩んでいると。
宿の主人が声を掛けてきた。
「猫を助けたんだってな」
「え?」
「村の連中から聞いたよ」
主人は笑う。
「この村じゃ、助けてくれた相手を放っておかない」
「でも、お金が……」
「なら仕事で返してもらえばいい」
「仕事?」
主人は指を一本立てた。
「明日、村の倉庫を見てくれ」
「倉庫?」
「扉が壊れて困ってる」
浩平は少し考えた。
そして笑う。
「便利屋の出番ってことか」
――――
翌朝。
浩平は村の倉庫前にいた。
「これか」
古い木の扉。
蝶番が外れ、うまく閉まらなくなっている。
「修理すれば大丈夫そうだな」
工具箱を開く。
昨日とは違う感覚。
必要な道具が分かる。
「……本当に便利な力だな」
作業を始める。
外れた部分を直し。
歪みを調整し。
最後に確認する。
ギィ……
扉が綺麗に閉まった。
「おお!」
後ろから声がした。
村人たちが集まっている。
「直ったぞ!」
「すごいな!」
浩平は少し照れた。
「これくらい普通ですよ」
しかし。
村人たちは顔を見合わせる。
「普通……?」
「壊れた扉をこんな短時間で?」
浩平は気付いていなかった。
自分の「普通」が、この世界では普通ではないことに。
――――
その日の夕方。
宿に戻ると、主人が笑っていた。
「評判になってるぞ」
「何がです?」
「便利屋だよ」
浩平は目を丸くする。
「まだ始めたばかりなんですけど」
「だからこそだ」
主人は笑った。
「この村で初めての便利屋なんだからな」
こうして。
異世界での浩平の仕事は始まった。
小さな依頼から。
少しずつ。
この世界に名前を広げていくことになる。




