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異世界便利屋~魔王討伐から小さな依頼まで承ります~  作者: 椿綺
第一章 始まりの村
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第一話 最初の依頼は迷子猫でした

第一章 始まりの村

草原を歩き始めて三時間。


相沢浩平は、ようやく現実を受け入れ始めていた。


「……本当に異世界なんだな」


見渡す限り草。


右を見ても草。


左を見ても草。


前を見ても草。


そして――腹が減った。


異世界に来たことより、昼飯を食べ損ねたことの方が気になっている自分に、浩平は苦笑する。


「異世界初日で遭難って……笑えないな」


その時だった。


遠くに煙が見えた。


「お、村か?」


浩平は足を速めた。


――――


一時間後。


たどり着いたのは石造りの小さな村だった。


門の前には槍を持った男が二人立っている。


その姿を見て、浩平は改めて思った。


ここは日本じゃない。


「止まれ!」


予想通り声を掛けられた。


「名前と所属を言え!」


「相沢浩平です。所属は……便利屋です」


「ベンリヤ?」


門番たちは顔を見合わせた。


どうやら聞いたことのない職業らしい。


「商人か?」


「違います」


「冒険者か?」


「違います」


「職人か?」


「半分当たりです」


「なんなんだお前は」


「便利屋です」


門番は頭を抱えた。


――――


しばらくして。


危険人物ではないと判断された浩平は、村へ入ることを許された。


村の中にはパン屋があり、鍛冶屋があり、八百屋がある。


まるでゲームの中の世界だ。


だが、そこで暮らす人々は皆普通だった。


当たり前だ。


彼らにとって、ここは現実なのだから。


「まずは情報収集だな」


浩平が呟いた時だった。


何やら騒ぎ声が聞こえてきた。


――――


広場には一人の少女がいた。


十歳くらいだろうか。


泣きながら俯いている。


「どうしたの?」


浩平が声を掛けると、少女は涙を拭った。


「ミーシャがいなくなったの……」


「ミーシャ?」


「うちの猫……」


なるほど。


迷子猫か。


どこの世界でも、こういうことはあるらしい。


しかし周囲の大人たちは困った顔をしていた。


村の近くには森がある。


そこには魔物が出るらしい。


探しに行ける者がいないのだ。


その瞬間。


浩平の目の前に文字が浮かんだ。


【依頼発生】


依頼内容:迷子猫ミーシャの捜索


依頼人:ルナ


報酬:少女の笑顔


受注しますか?


YES/YES


「YESしかないのかよ」


思わずツッコむ。


周囲の人々は不思議そうな顔をしていた。


どうやら見えていないらしい。


浩平がYESに触れる。


すると頭の中に情報が流れ込んできた。


猫の習性。


足跡の見方。


匂いの追跡方法。


行動パターン。


今まで知らなかったはずの知識が、自然と理解できる。


「……なんだこれ」


驚きながらも、浩平には分かった。


これは便利屋として必要な力なのだと。


「探してくる」


「ほんと?」


少女の顔が明るくなる。


「任せて」


浩平は笑った。


――――


十分後。


浩平は森の入口に立っていた。


地面を見る。


折れた草。


小さな足跡。


木についた引っかき傷。


「こっちだな」


自分でも驚くほど自然に分かる。


まるで昔から、この仕事をしていたようだった。


――――


森を進むこと三十分。


「ニャー」


鳴き声が聞こえた。


「いた」


木の上。


白と茶色の猫。


だが問題があった。


木の下には狼のような魔物がいる。


猫は降りられず、魔物は狙っていた。


「なるほど」


浩平は工具箱を開く。


中には見覚えのない道具が入っていた。


「これは……?」


手に取った瞬間、頭に説明が浮かぶ。


【捕獲用スリング】


対象を傷つけず拘束可能。


「便利屋って、結構すごいな」


浩平は苦笑した。


そして。


シュッ!


飛んだスリングが魔物の足に絡みつく。


魔物が倒れる。


その隙に木へ登り、猫を抱き上げた。


数分後。


無事に救出完了。


――――


帰り道。


猫を抱いた浩平は空を見上げた。


「異世界か……」


まだ実感はない。


でも一つだけ分かった。


この力があれば。


困っている人を助けられる。


そして――


この世界は、退屈だけはしなさそうだ。


浩平は少女の待つ村へ歩き出した。

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