第十六話 失くした指輪
昼過ぎ
浩平は交易都市アルトの市場を歩いていた
露店からは威勢のいい声が聞こえる
子どもたちが走り回り
商人たちが値段を競い合う
「活気があるな」
思わず足を止める
その時だった
「お願いです!」
若い女性が浩平の腕をつかんだ
「便利屋さんですよね?」
「はい」
「何かありましたか」
女性は泣きそうな顔で頷いた
「婚約指輪を失くしてしまったんです」
「母の形見でもあるんです」
その瞬間
【依頼発生】
依頼内容 失くした指輪の捜索
依頼人 ミリア
報酬 銀貨十枚
受注しますか?
YES/YES
「分かりました」
「一緒に探しましょう」
――――
浩平は最後に指輪を見た場所を聞いた
市場の噴水
布屋
パン屋
歩いた道を一つずつ確認する
「慌てていたんですね」
「はい……」
「ぶつかった人は?」
「いました」
浩平はその場所へ戻る
地面を見る
人の流れを見る
頭の中へ知識が流れ込む
落とし物の探し方
人の動き
小さな痕跡の見つけ方
「こっちだ」
市場の裏通りへ向かう
そこには小さな排水溝があった
浩平はしゃがみ込む
「ありました」
光る指輪が網の隙間に挟まっていた
工具箱から細いフックを取り出す
慎重に引き寄せる
カラン
小さな音を立て
指輪が手の中へ転がった
「これですか?」
女性は目を見開く
「それです!」
両手で大事そうに受け取る
「本当にありがとうございました」
「もう見つからないと思っていました」
浩平は笑って答えた
「見つかって良かったですね」
――――
女性が帰ったあと
工具箱が淡く光る
中には細長い一本の道具が増えていた
先端が曲がった細工用フック
「細かい仕事用か」
工具箱を閉じる
市場を歩いていると
通りの向こうで
昨日見かけたローブ姿の老人がこちらを見ていた
目が合う
老人は静かに頷くと
再び人混みの中へ姿を消した
「またあの人か」
浩平は首を傾げる
だが今は
追いかける理由もなかった
「さて」
浩平は空を見上げる
「今日はもう一件くらい依頼があるかな」
そう呟きながら
再び市場を歩き始めた




