第21話 苦悶の意図
源城は、ダンジョン内食物連鎖の頂点のナイコンドルと交戦し、ナイコンドルの配下である電力牛を地に沈めるも、同じくナイコンドルの配下の岩球鮫に襲撃され、1人と1匹は光終わり闇昇る地の滝から宙へ放りだされてしまった。
源城は頭頂から落ち、風を切る音を聞きながら、改めて思い返していた。
これが、岩球鮫の得意戦術だと。
「Boooooooooo!」
岩球鮫は尾ひれで崖をけり、源城に牙を向ける。
源城がそれを盾蝦蟇ではたき落とすと、盾蝦蟇に頭突きをし、その勢いで崖に飛び退く。
岩球鮫は尾ひれで崖をけり、源城に牙を向ける。
「ぐっ!」
源城がそれを盾蝦蟇ではたき落とすと、盾蝦蟇に頭突きをし、その勢いで崖に飛び退く。
これでは岩球鮫の術中だ。
光終わり闇昇る地の滝つぼから敵と共に落下し、格闘技で相手だけを滝壺に叩き落とす。
稲妻のように迅速で鮮烈なその戦術を、冒険者は恐れ、名前を付ける。
(これが……落雷閃!)
「shaaaaaaaaa!」
岩球鮫の攻撃は、防げども防げども、次の攻撃が襲いかかる。
更に、その襲撃は、ギリギリ防ぐことはできるが、空中であることも相まって、右手の小異細暗己で腰の入った反撃をすることもできない。
(どこに来るかわからない素早い攻撃の対策は、全方位へのもっと素早い攻撃……)
真っ逆さまに落ちる源城の耳に、滝の水が滝壺に落ちるボシャボシャという音が大きくなっていく。悠長に戦っていれば、頭から滝つぼに突っ込む羽目になる。
(理論上なら策がある……あとはぶっつけ本番だ!)
岩球鮫が崖をけり襲いかかる。
その瞬間、源城の全身に黒い瘴気がまとわりつき、楕円となる。
「王たる漆黒で全てを終わらせろ」
真っ黒の瘴気は深淵となり源城の背後に広がり、その中から12対と1対の目が開く。
「亜時空の過遺物 聖剣仕掛けの深淵!!」
深淵の中から光を吸い込むような漆黒の剣が13本現れ、今まさに源城を襲わんとする鮫の全身を貫いた。
「shaooooooooooo!?!?」
ダンジョンプレデターの家族同然の懐刀である岩球鮫だったが、魔法の極致のような一撃を受けてはひとたまりもない。
崖に全身の肉を食い込まされ、聖剣仕掛けの深淵が霧散した後も、その体は崖にへばりついたままになってしまう。
かくして、源城は電力牛に続いて岩球鮫の撃破まで成し遂げた。
そして、体が自由になるのであれば、滝壺に転落し地表に体を打ち付ける恐怖の未来に対策がある。
「蛇生金属!」
ナイコンドルの体を縛っていた蛇金属のオプションを起動し、少しすると、蛇が細長い体をギュンギュンと伸ばし、源城の腰に巻き付く。
すると少しして、源城の落下が止まる。
蛇の体のもう片方は、ナイコンドルの首に巻きついたままだろう。そのナイコンドルが、源城の道連れで滝壺に落下など望むはずもなく、そしてダンジョンプレデターたるこの怪鳥は、望まない未来を捨てられるだけの強靭な肉体がある。
結果、ナイコンドルの首の力で、源城の、成人男性1人の体が支えられる。
「keooooooooo!!」
ナイコンドルが、つんざくような鳴き声を空に響かせると、源城の体が、ぐいんと持ち上がる。
「うわぁっ!」
源城は逆さのまま、短距離走者が走るような速度で崖を逆流する。
「やっばっ、ぐっ、」
源城は崖を足で何度もけり、崖と接する時間をできるだけ短くする。ナイコンドルのされるがままでは、崖ですりおろされてひき肉の紅葉おろし和えになるのは目に見えている。
なんとか自身の生存に集中し、滝のふちが見えてきた。もう少し上昇すれば、崖からの生還ができる。
安堵した源城だったが、崖の上を見ると、ナイコンドルは、勢いを付けるように宙を一度旋回している。
(まずいっ!)
勢いをつけてまで攻撃する対象など明確。自らを縛り謎の負荷を課している蛇に決まっている。
その蛇を今断ち切られてしまったら、崖転落のやり直しだ。
(間に合えっ!)
「蛇金属!」
起動した刹那、源城の腰回りにどすっと負荷がかかる。
そしてその負荷は、勢いをつけ宙を舞うナイコンドルも襲う。
蛇の重量と硬度を再び増やした。ナイコンドルは不意の障害に想定ほどの勢いが出せず、渾身の頭突きを蛇の体にぶちかますも、ナイコンドルと源城の繋がりを破壊するまでには至らなかった。
「……っはぁーーっ」
源城は、自分の重力は自分以外に支えてもらい、崖のふちに手をかけて、なんとか崖から戻ってきた。
そしてこれ以上蛇金属を破壊されないよう、魔法を解除する。
「源城さんっっ!」
楽奈美が駆け寄ってくる。
「楽奈美さん……なんとか、戻ってきました……。」
源城は大きく息を吐く。
「ケガはありませんかっ!?」
「大丈夫です」
「よかったぁ……これも、崖がケガの反対だからですね」
「じゃあむしろケガしない方が普通までありますかね」
「源くん……」
ロコクリスがやって来た。表情は微笑んでいるが、その目はやや心配の色。
「あのさ、ナイコンドルは、」
「ナイコンドルも、俺が倒すよ」
源城はロコクリスの肩をパンと叩く。
「俺を信じてくれ。勝つための作戦はすでに考えている」
「源くん…………」
ロコクリスは何かを言いかけたが、その言葉を打ち消すように首を振る。
「無理は、しないでね?」
「いいや、せっかくの経験だ、ちょっとぐらい無理させてくれ。……でも、だいぶ無理して、それでも駄目だったら、」
源城はロコクリスにニカッと微笑む。
「その時は助けてくれよ、お姉ちゃま」
「……うんっ!」
ロコクリスがコクリと頷いたのを見て、源城はナイコンドルに向き直る。
「もうひとふんばりだぞ、俺……盾蝦蟇、蛇金属、潤蛞蝓!」
盾のガマガエル、縄の蛇、靴のナメクジ。
源城は今までに源城を助けてくれた動物達を改めて生成する。
しかしいずれも補助的な役割、人1人を容易く持ち上げる強靭な怪鳥には力不足、
とはならないための、切り札がある。
「豪結束!」
源城の声に合わせ、盾蝦蟇、蛇金属、潤蛞蝓が白く光り輝く。
源城がよく使う魔道具には、決まってこのオプションがある。
蛙、蛇、ナメクジ。この3体が揃った時、あまねく敵を地に伏せる、真の力が放たれる。
光り輝く3匹の生物は、装飾品のサイズからどんどん巨大化し、盾蝦蟇と潤蛞蝓は源城の背を越えるほどに、蛇金属は、源城の数倍の体長へと変化する。
そして、大きくなった歩幅でドスドスズザザと進み、主の敵、ナイコンドルを取り囲む。
ナイコンドルは、鋭い眼光で3体を見渡す。
「骨を砕いて腱を裂け、手遊び豪傑譚 三竦みの巻!始まり始まりい!」
かつて禍災龍にとどめを刺すために使った時は、魔力が枯渇し失敗した。
しかし今回は、光の中から現れた3体は、その体を巨大に保っている。
(まだだ……)
禍災龍の前に倒れ伏し、強がるしかなかった過去の自分を思い出す。
(俺はまだまだ前に進まなくちゃいけないんだ!)
ドスをくわえたナメクジがナイコンドルに襲いかかる。
ナイコンドルは飛翔しそれを回避しようとするが、ガマガエルが、まるで獲物を捕縛するように舌をビュンと伸ばし、ナイコンドルの体に絡みつける。
「quaaaaaaa!」
動きを縛られたナイコンドルは、自慢の頭突きでドスに応戦する。強靭な肉の兜に、ドスにヒビがはいる。
しかし、ナイコンドルを襲う脅威は過ぎ去っていない。
蛇の頭から無数に生える小さな蛇が、口から毒液を吐き出した。ほかの2体の対処に追われるナイコンドルは避けられない。
「duoooooooooo!」
ナイコンドルは痛ましい叫びを上げる。
それからの戦いは、ナイコンドルを追い詰め続けていた。
ガマガエルが腕を伸ばす、ナイコンドルが翼で振り払う。蛇が毒液を放つ。ナイコンドルは翼をさらに大きく振るい、毒液を吹き飛ばす。
しかし、大きなぶん回しをした直後に、ナメクジのドスがナイコンドルの体を斜めに切りつける。
ナイコンドルがナメクジに反撃しようとすると、その動きを、毒液で伸びる舌で妨害され、満足に勢いをつけられない一撃は、ナメクジに簡単に防がれてしまう。
「coooo……」
ナイコンドルの体勢がぐらつく。
(今だっ!)
大きな隙を見せた瞬間、ガマガエルの舌と、蛇の牙と、ナメクジのドスが同時にナイコンドルを襲う。
「dorrrrrrrrrrr!!」
ナイコンドルがひときわ高く鳴く。
源城は魔力の限界が近いことを悟り、ここまで追い詰めた3体を霧散させる。
「獄上五剣 小異細暗己……!」
(まだ少し……あと少し……戦える!)
源城は、大きく深呼吸すると、満身創痍のダンジョンプレデターにとどめを刺さんと、愛用の妖刀を起動し中段に構える。
そして、その妖刀から黒いオーラを立ち上らせる。
刀身の2倍ほどの黒いオーラは、刀身からはみ出てゆらゆらと揺れる。
その姿はまるで、黒炎のよう。
「おおぉおぉおっっ!」
源城は自分を奮い立たせるように咆哮し、ナイコンドルに、オーラ揺らめく妖刀を振り被る。
「これが最後の一撃だぁぁぁあぁあぁ!」
「ceceeeeeeeee!」
「篝火百万煉獄っっ!!」
業火のように吹き出る暗黒のオーラと共に、その妖刀がナイコンドルの全身を切り裂いた。
ダンジョンプレデターたる怪鳥、ナイコンドルは、その全身に妖刀の力を刻まれ、地に落ちた。
「…………あぁ、」
源城は安堵でへたり込んだ。
「やったあぁあああぁああぁあああ!!」
楽奈美の歓声が、ダンジョンの空に響く。
源城がゆっくりと立ち上がると、楽奈美とロコクリスが駆け寄ってくる。
「やりましたねっ、源城さんっっ!」
楽奈美は嬉しさを抑えきれないようにぶんぶんと手を振る。
途中、ロコクリスによる強力なサポートを一度受けたため、単独とは言えないが、それでもできるだけ源城1人で、ダンジョンプレデターとその配下の計3体を討伐した。
(考える頭はある程度働いてるが……強くて速い力でゴリ押されると、後手に回りがちだな。いや、まぁ反省点は色々あるが、)
源城は思考を切り替える。
「とりあえず、勝ちました……!」
今はただ、自分と仲間に祝福を。
「ですねっ、源城さんっ!」
楽奈美の嬉しそうな声を聞いていた源城に、ロコクリスが抱きつく。
「やったね源くんっ♡」
「にぃっ!?あっああ、ありがと。お姉ちゃまが滝を凍らせてくれたおかげでだいぶやりやすかった」
いい匂いと肩に感じる柔らかな乳房にどぎまぎしながらも源城は努めて平静に答える。
「あともうそろそろ離れてくれ」
「えーっ?源くんは自分を褒めないからその分私が褒めてるんだよぉ?」
源城の抗議も意に介さず、食い下がり頭を優しく撫でるロコクリス。
ロコクリスの撫で方はなんか特殊で、撫でられた所がぞわぞわする。
「……いやぁ、すごいなぁ」
楽奈美はそんな2人を見つめている。
「ちょっ、お姉ちゃまっ!楽奈美さんも見てるって!」
「2人きりならいいんだぁ♡」
「そういう意味じゃなくてっ!」
ロコクリスが満足するまで、10分ぐらいこの調子だった。
かくして、源城は、元熟練度青という経歴を汚すことなく、錯覚と策略の山脈、ドゥライブのダンジョンプレデターを討伐した。




