第20話 散見入った意
源城は、貴族のような高慢な少女、海蓮を、すごく恥ずかしい目にあったりあわせたりしながらなんとか退けることに成功し、仲間達と共に、錯覚と策略の山脈ダンジョン、ドゥライブの8合目に来ていた。
「うわぁ、この滝真っ暗ですね」
楽奈美が物珍しそうに歓声を上げ、黒い水を落とす滝のふもとに近づく。そして、近くからのぞいたり少しすくいとったりする。
その滝は空からの強い光を受けても表面が少し照らされるぐらいで、ほとんどの光は黒色の水の中に吸い込まれていっているようだ。
「ひー、真っ暗真っ黒。なんか私達の未来と対照的、ウォウイェーイ」
「ふふ、楽奈美さん、楽しそうね」
「そうだな」
ロコクリスの優しい声に、源城はうなずく。
(俺も……前はこんな感じだったな)
冒険者として色々なダンジョンを踏破してきた源城は、周囲の自然に一喜一憂する楽奈美の姿がまぶしい。
きっと、源城以上に冒険者として熟練しているロコクリスも、同じような気持ちだろう。
「それは、光終わり闇昇る地の滝ですね。色の原因はここの地層深くの金属を含んだ泥が原因です。ずっと触ってると皮膚によくないですよ」
源城の言葉を聞いた楽奈美が、熱湯に触れたようにバッと手を引っ込める。
「ひぇぇっ、延暦寺っ」
「まぁ、短時間なら大丈夫ですよ」
「で、でも何曲も歌を歌えるぐらいには浸かっちゃってましたぁ」
「そうですか?数秒ぐらいでしたが?」
「Y〇u S〇ffer5曲分ぐらい……」
「1曲1秒ちょいじゃないですか」
1曲の短さでギネスに登録されている曲の名前を出され、源城は思わず突っ込む。
「……そろそろ、来ますよ」
ロコクリスの声に促されるように源城は前を見る。
それは照りつく空を飛翔し、無造作に降り立つ。
体長3メートルほどの大きめの体が何層にも折りたたまれたような黒い羽根に包まれて、顔の周りはピンクの筋肉が隆起し兜のように覆われている。
そのゆったりとした振る舞いは、人間が3人、目の前にいるというのに、脅威などいないとでも言いたげだ。
「来ましたね……ナイコンドル」
源城はその堂々たる姿を見て、大きく深呼吸する。
「獄上五剣 小異細暗己……!」
源城は、日本刀型の魔道具を起動し、その刀身に黒いオーラをまとわせる。
ナイコンドルは、そんな源城の様子を一目見るが、興味なさそうに視線をそらす。
「お姉ちゃま!奇襲が来そうだったら言ってくれ」
源城は小異細暗己を中段に構える。
「わかったわ」
「鳥不留の暗闇!」
小異細暗己がまとっている黒いオーラが指向性を持ち前方へ吹き出る。
そのオーラは視界を覆うだけでなく、獄上五剣所有者以外を衰弱させる能力がある。
源城はその暗闇の中に突っ込み、薄暗い中からナイコンドルの姿を確認、接近する。
(まずは手始めに……)
「五七斬!」
「Conaaaaa!」
ナイコンドルは視界が悪い中でも羽根で源城の攻撃をいなし、かわす。
(これは駄目か、ならもっと踏み込んで距離を詰めて……)
「1時、11時、奇襲!」
「っ!」
暗闇の中で大きな物が空を切る音が2つ。
「盾蝦蟇!」
ガマガエルが生成されて変身し、腕に巻くサイズの小型の盾になる。
「泡弾!」
盾に刻まれたガマガエルの口から、泡を弾丸のように放つ。
放たれた弾丸は、前方やや右へまっすぐ飛んで行く。
源城は泡の弾丸に先陣を切らせ、同じ方向へ駆ける。
奇襲の正体は、顔ほどの大きさの丸い巨岩だった。それは勢い良く飛び、泡に勢いをやや殺されながらも泡をはじけさせ、前進する源城を襲う。
源城はその巨岩を盾蝦蟇で斜め下にはじき落とす。
(この攻撃は…………ヤツか。)
巨岩を落とし無事になった刹那。暗闇の中に、
バチッ
と火花のように小さな電気の花が浮かぶ。
「10時奇襲!」
(こっちもいるか……!)
源城は盾蝦蟇を構える。
「泡波!」
盾を振るうと、ガマガエルの口から大きな泡がゆっくり膨れ、源城に振られるままつぶれた楕円の形で前方へ飛んでいく。
その直後、電流が瘴気の暗闇にほとばしる。
ほとばしった電気は源城に向かうが、源城の放った泡にぶつかり、泡の表面を滑り、四方へ散らばる。
そして、小異細暗己が作り出した暗闇がダンジョンの風に流され、視界がクリアになる。
ナイコンドルと、それを守る獣2頭の姿が見える。
肉の兜を被った怪鳥の両隣には、巨大な岩を滝のふちに置いて黒い水から顔を出し目を光らせる鮫と、巨大な2本角の間に電流をほとばしらせる牛がいた。
「あの2頭は……!」
「岩球鮫と電力牛……ナイコンドルは、この2頭を生み出したとされています」
楽奈美の問いかけに、ロコクリスが答える。
ナイコンドルは、生まれてすぐ、名も知られない鮫と牛に、知恵と力を与える。
岩球鮫と電力牛は、新たな生き方を与えてくれたナイコンドルを、生みの親のように感謝し、絆を感じている。
「お姉ちゃま、俺は電力牛を狙う。残りの分断頼む!」
「りょーかい♡……天妃庫簾!」
和服に身を包んだ美女が現れる。
その美女は、地に降りた刹那、空を舞う金髪がみるみるうちに銀髪になり、顔の半分を岩の仮面がおおっていく。
その美女の仮面が大きくなるにつれ、光終わり闇昇る地の滝が凍結していき、凍って膨張した滝の水が手のように姿を変えナイコンドルの足を掴む。
ロコクリスは、全盛期の源城を上回る熟練度を証明するかのように、あっという間に、ナイコンドルと岩球鮫の身動きを封じた。
(今だっ!)
「潤蛞蝓!」
源城は魔法で生成したスケート靴を足に装備する。そのスケート靴のブレードの部分は、体を反らしたナメクジのようになっている。
源城はそのスケート靴のブレード部分からぬめりを出すと、滑るように電力牛の方へ駆け出す。
電力牛は、源城を睨みつけ、臨戦態勢だ。
電力牛は角の間に電流の火花をほとばしらせて構えている。
角に溜めて牛が殺す。電力牛の電撃は雷のように脅威だが、源城は震えを抑え電力牛の動きから目をそらさないようにしながら地を滑る。
「Cooooooooo!!」
横目でナイコンドルが咆哮し、頭を地面に振り下ろしているさまを見る。
ガシャァァンッ!
ナイコンドルを掴んでいた氷は、ナイコンドルのヘッドパッドで簡単に砕け散った。
(ナイコンドルを自由にさせたら厄介だ。時間がないっ!)
「naaaaaaa!」
ナイコンドルの咆哮は源城に近づいてこない。まずは岩球鮫の救助を優先したのだろう。
「泡弾!」
源城は盾のガマガエルの口から泡を吐き出す。
「Buoooooo!」
電力牛が角から電撃を放ち源城へ向かわせるが、迎撃の泡に電流が触れると、空気より非常に抵抗が少ない泡の表面を電流が走り、電流同士で衝突し打ち消される。
結果、泡1つで電力牛の雷のような電撃を防ぐことができる。
「まだまだぁっ!泡弾!」
泡の弾丸を盾にしながらすいすいと電力牛に肉薄する。
電力牛は電撃を角の間にチャージしているが、泡1つで防がれることを学んだが、その一撃を撃ち込まずに待っている。
泡弾の泡は、ある程度の指向性を保ちつつふわふわ浮かび、前方の守りには頼りない印象を与える。
「……いくぞっ!」
作戦開始。小異細暗己を、投げやりのように投げつける。
投げられた妖刀は、正面の泡を弾けさせ、まっすぐに電力牛へ向かう。
電力牛の電撃から源城を守っていた泡が弾けて霧散したことで、電力牛が放出の構えをとる。
「……泡の守りを捨てる、泡沫のような作戦だと疑ったが」
源城がダンジョンに来る前に練っていた作戦は、成功の自信を持ちきれなかったが、狙い通りその刃が、電力牛の額の角の間に突き刺さった。
「慌ててくれると光栄だ」
電力牛が電撃を放出すると、小異細暗己がそれを受け止め、空気よりはるかに抵抗の低い刀身に電撃が走る。
その電撃は刀の表面を荒れ狂い、刀を突き刺された電力牛の顔を襲う。
「bufoooooooooo!!」
電力牛は自らの電撃で悶え苦しむ。
(電力牛は頑丈な表皮を持っているが、電撃で焼け焦げた場所は表皮がめくれ、弱点となる!)
源城は地をスケートリンクのように滑り、滑走の勢いで大きく跳躍する。
(感電している電力牛に手で触れるのはアウト。自分も感電する、ならば)
源城は空中で足を折りたたむ。
「自分にシビれて幕を引け……!身刀又左突き!」
源城は空中で折りたたんだ足を伸ばし、前進の勢いとともに小異細暗己の鞘を蹴り、妖刀を深く深く、脳天に突き刺す。
「booooooo……」
電力牛は、電流をまとった妖刀を頭の中に突き刺され、ずしりとその場に倒れ伏した。
「やったぁ!」
「源くんえらいえらい♡」
楽奈美とロコクリスが歓喜の声を上げる。
「まず1体、あと2体」
源城は大きく息を吐く。一度落ち着くと、今までの疲労が染みつくように襲ってくる。
支援魔法で運動能力が確保され疲れにくくなっているとはいえ、地を疾走し、飛び蹴りを入れるのは大きな動きになる。
「quaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
ガッシャアアアアアン!
ナイコンドルが強く高く鳴き、直後に氷が大きく砕ける音がする。
(まさか頭突きで……)
源城はナイコンドルの方を見る。
「凍った光終わり闇昇る地の滝をたたき割ったのか!?」
ナイコンドルの頭を中心にロコクリスが凍結させた氷に大きな亀裂が入り、亀裂に滝の黒い水が染みこみ、融解が早まる。
「これで岩球鮫もフリーかよ!」
源城は潤蛞蝓で地を疾走する。狙いは、液体になりつつある滝を泳ぐ岩球鮫だ。
「……分断しようか?」
ロコクリスが源城に声をかける。
「…………」
源城は少し思案したが、
「いやいい、俺が分断する」
その申し出を断った。
「了解。困ったら甘えていいからね♡」
「どーも」
(まだだ……まだまだ、今の俺の限界を引き出す必要がある)
「shaaaaaaa!」
岩球鮫が成人男性の胴体ほどの大きさの岩を、尾ひれをふるい投げつける。
「くっ!」
源城は滑走速度を速めると、後方に岩球が落ちる。まともにぶつかればひとたまりもないが、単調な攻撃なので避けるのは難しくない。
しかし避けた先にも攻撃がある。
「naiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!」
ナイコンドルが飛翔し、肉の兜となった頭で頭突きを繰り出す。
「ぐっ!」
避けられず、盾蝦蟇で受け止めるが、その勢いで地を削り後方へ追いやられる。
潤蛞蝓は地面との摩擦を減らし高速移動を可能にするが、踏ん張りがきかず防御が弱くなる弱点がある。
「ぐぅぅっ、蛇金属!」
茶色に黒の斑点の蛇を生成し、ナイコンドルの首に巻き付けると、その蛇が銀色になり、急に重みが増す。その重みでナイコンドルの勢いが落ち、ナイコンドルは仕切り直しのように地面に着地する。
しかし、ナイコンドルの一撃を長く受け止めた代償は大きかった。
源城はナイコンドルに後退させられ、滝のふちに追いやられていた。
「源城さんっ!」
楽奈美が叫ぶ。
「shaooooooooooo!」
ギリギリの瀬戸際に、岩球鮫が飛びかかり襲ってくる。
「っ!」
盾蝦蟇で噛みつきを防いだが、飛びかかりの勢いを殺しきれず後退する。
瀬戸際だった足元に、とどめが差される。
岩球鮫に襲われ、源城は一緒に滝から落下する。
「源城さああああああああああんっっ!!」
楽奈美の叫びが、ダンジョンに響いた。




