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第2話 世界より始めよ

『ダンジョンのゲートはこちらデス』


 ダンジョン受付用AI、「セイレーン」が少女のような機械音声で、楽奈美(らなみ)波夢子(はむこ)を出迎える。


「わぁー!生セイレーンちゃんだ!」


 楽奈美は歓声を上げながらセイレーンに近づく。

「かわヨ!かわ山!かわM!」

「素直にかわいいって言いなよ」


 楽奈美の言動に波夢子は軽くあきれる。

 セイレーンは、受付台の上でホログラム投影された、全長15センチぐらいのマーメイドのような姿の音声付AIだ。

 彼女は、各種ダンジョンに配備され、ダンジョンの情報提供や入場管理をしている。

 今日初めてダンジョンに入る2人にとっては、非常に頼りがいのある存在だ。


『ありがとうございマス、かわ山ってよく言われマス』

「マジで!?」

「でしょー。セイレーンちゃんを普通に褒めるなんてもったいない。せっかく高性能AIなんだから、ネタふっかけないと」

「高性能AI関係ある?」

「なぁに言ってんのハムちゃん。これこそが高性能AIの有効活用だよ……セイレーンちゃん」


 楽奈美がセイレーンに声をかける。


『はい、なんでしょうカ?』

「隣の陛下が恋をしたんだって」

『へぇ、かっこいいデスネ』

「このとおり」


 ドヤる楽奈美。


「どのとおりだよ」


 呆れる波夢子。


「ともかく、セイレーンちゃん、ダンジョンに初めて入るから、ファイル足りてるか確認して」

しょーちま(承知しました)


 楽奈美はノードフォン……次世代電話機を操作して、ダンジョン入場に関係する各種電子データを、初めての人用のものも含めて提出する。波夢子もそれに続く。


『確認しまシタ。書類全部問題なしデス』


 セイレーンは2人のデータに問題がないことを0.6秒で確認した。


「セイレーンちゃんありがとう。このダンジョンは初心者向けなんだよね?」


 楽奈美の問いにセイレーンはホログラムの小顔でぺこんと頷く。


『このダンジョンは昨日21時時点で界圧(かいあつ)7程度と測定されており、ダンジョンが初めての楽奈美サンや波夢子サンでも攻略できる可能性が高いです。しかし、このダンジョンの中に観測されていない脅威がある可能性があるため、危ないと感じたらすぐに引き返すようにしまショウ』

「はーい」


 ダンジョンについては国が頻繁に観測し、その詳細や脅威の度合いを算出している。

 界圧とは国が観測、予測したダンジョンの厳しさで、ある程度ダンジョンに慣れた冒険者が十分に準備すれば高い確率で踏破できるダンジョンを100、初めてダンジョンに入る人が無策で入り高い確率で踏破できるダンジョンを0とした大まかな数値である。


 楽奈美と波夢子は、最後に、魔道具の点検をしてから、ダンジョンに入る。

 ダンジョン内で魔法を使うために必須の魔道具は、現場での故障が文字通り命取りになる。何度点検してもしすぎることはない。


「じゃあ、楽奈美、行こっか」

「ね」


 2人はダンジョンの入り口、洞窟の入口を思わせる円形の穴に入る。

 中は薄暗く、人工の光もなく、相手の顔もぼんやりとしか見えない。


「うわっ、ホントに真っ暗だ」

「そうね」

「ねーねーハムちゃん、これ何本?」


 楽奈美は指を2本伸ばす。


「ぼやけてるけど本数は分かるわ。2本」

「大当たりー!天才ー!」


 楽奈美の声がダンジョン入り口に反射する。

 しばらく歩くと、前方から光が差す。


「おっ、ついにダンジョンだ」


 楽奈美は小走りで光の方へ向かう。


「ちょ、楽奈美、急に走らないで」


 2人が暗闇から光の中へ入ると、

 そこには空と花が広がっていた。



「うひゃああーーっ!」


 楽奈美は歓声を上げた。

 外から暗闇の中を潜ったというのに、そこは地上のように明るい。

 光が空から照りつけ、緑の植物が色とりどりの花を咲かせている。


「見てみてハムちゃん、魚が歩いてる!」


 楽奈美が指さす方では手足の生えた青魚…地球で言うとイワシが近いだろうか…が、ぬめぬめで鱗が生えてくすんだ銀色の前足後足で地上をベチャベチャ進んでいる。


「うわ…」


 その異様な姿に波夢子は言葉を失う。


強魚(つようお)じゃん。キモカワ!」

「キモ、カワ……?」


 ダンジョンの入り口は地球と異世界を繋いでいるとされている。

 よってダンジョンの生態系は、地球のそれと全く異なり、鰯に似た生き物が地上を歩いていても何もおかしくない。


「楽奈美、取り敢えず強魚狙う?多分真っ向からやったら勝てないけど」


 ダンジョンでやることと言えば、狩猟と採集。

 異世界の生き物や植物を持ち帰ることで、世界は一気に発展していき、ダンジョンを冒険する冒険者達の収穫がなければ、次世代電話機(ノードフォン)は作れなかったと言われている。


「よし、強魚狙おう。初陣じゃあ」

「ん。取り敢えず、強魚は脅威度12ぐらいだから真っ向から行かず隠れて追跡しよっか。それで、休んでるところを狙おう」


 強魚は、その名に反し、割と簡単に倒せるが、ダンジョン初心者の楽奈美と波夢子にとってはそいつすら難敵だ。

 水の魔法と(鰯みたいな見た目のくせに)強い脚力で、ほうぼうのていで逃げ帰る初心者も少なくない。


「おっしゃ、桶狭間じゃあ」

「何が?」


 楽奈美と波夢子は茂みに隠れながら、強魚の動向をゆっくりと追う。

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