第14話 大詰めに乗った気で
源城はタコの足を自らの足に巻いたまま、シャチ駆を走らせる。
そしてそのまま、禍災龍に近づき、周りを旋回する。
「どうした禍災龍?俺にビビってんのかぁ?」
源城は口で挑発し、馬鹿にしたようなニヤニヤ顔を作る。
「黙れ雑魚が、ちょろちょろとうぜぇな」
禍災龍はそっけなく答える。源城の挑発に乗るそぶりを見せず、楽奈美と波夢子のほうを見やる。彼女達の方が殺傷しやすいと考えてるのだろう。
「俺の方を見てなくていいのかぁ?」
源城は自分の足に巻いたタコの足を握りながら、低速でちょろちょろと動く。
「……ちっ」
禍災龍は舌打ちする。
タコの足は楽奈美と波夢子の足にも巻き付いている。タコは3人の間に静かに立っている。
シャチ駆で素早く動ける源城が引張蛸で楽奈美と波夢子の動きをコントロールできれば、禍災龍にとっては厄介な攻撃回避手段になる。
禍災龍の不意打ちの蒼炎も、引張蛸のせいで避けられたばかりだ。
「てめぇなんか関わる価値がねぇよ!まずはこいつからだ」
禍災龍が短く蒼炎を吐くと、炎球となりタコを狙う。更にそれに合わせて、禍災龍がタコに向け滑空し突進する。
このタコを魔法で逃がせば、逃げた先に鋭い爪の追撃が待っている。更に禍災龍は、タコとの距離を詰めることにより、タコの細かい動きを目で知覚できる。
楽奈美と波夢子、禍災龍から逃げ惑うばかりだった2人の冒険者と、うざったい源城をつなぐタコ足を断ち切る、そういう作戦が透けて見える。
そしてそれは、
「想像以上に、作戦通りだ!」
源城の狙い通りだった。
源城は、タコの足をほどき、それに合わせて楽奈美と波夢子も足をほどく。
そして、3人でタコを禍災龍に投げつける。
「!?」
禍災龍の蒼炎球の前に、タコが投げられる。
「……ヨシミンさん、力と言葉を借りますね」
波夢子は、噛み締めるように囁く。
そして、ヘンテコで自信家な恩人の背中を思い出しながら口を開く。
「Da Bomb……!」
ドッゴォォォォォォォ!!
幻影素敵爆弾人形が蒼炎を浴び、爆発する。
今、禍災龍が襲ったのは、波夢子が魔法で生成した引張蛸ではなく、ヨシミンから波夢子に託された、引張蛸に似た姿で生成されたガス人形だ。
「くぁっ!」
禍災龍は怯む。
禍々しき黒龍とその吐炎球には魔法耐性があるため、禍災龍の体にはほぼ傷はない。
しかし、不意を突いた激しい爆発の煙と音は、禍災龍の動きを数秒止めた。
そして数秒という時は、刹那の判断が問われる戦いにおいては、非常に長い時間だった。
「波夢子さん、引張蛸を!楽奈美さん、GO!」
源城は咄嗟に波夢子に引張蛸を、楽奈美にとっておきを使わせる。
「引張蛸!」
「巨重飛兎!」
引張蛸が禍災龍の足をからめとり、人間ほどの大きさの黒い兎が禍災龍の足にまとわりつき、強い引力を発生させる。
禍災龍がひるんだ数秒が、長い拘束につながる。
「くそがっ!こんなもの……!」
禍災龍がタコ足と兎を振りほどこうとしながら、辺りを見回し、ハッとする。
「タコ足を、駆け上ってっ!?くそっ、てめぇらこっちくんなっ!」
源城と楽奈美はタコ足をつたって禍災龍の元へ駆けあがる。
そして、タコの足を蹴り、2人同時に禍災龍に襲いかかる。
「獄上五剣 小異細暗己!」
「月面強襲!」
そして2人は、近接用の武器を手に取る。
「五七斬!」
「星連撃!」
刀による無数の斬撃が、合金の拳による無数の乱打が、禍災龍の身体に叩き込まれる。
「うぜぇんだよぉぉっ!!」
禍災龍が叫ぶ。
(これでいい……!効かなくても、刻むように!)
源城は、自分や楽奈美の攻撃では、禍災龍に大したダメージを与えられないことを悟っていた。
そこで、森の中を歩きながら楽奈美や波夢子と打ち合わせし、1発の大きな攻撃より、連続攻撃を心がけるように話しておいたのだ。
(どうせ強力な攻撃をしても肉体へのダメージは軽微。それに禍災龍には回復もある、ならば……精神を摩耗させる!)
「無駄なんだよ雑魚ども!そのへなちょこ攻撃やめろや!」
禍災龍が叫び、身を捩る。源城と楽奈美は禍災龍の背中に乗っているので、ヤツの爪も炎も届かない。
(例えば俺達の攻撃が、禍災龍にとっては消しゴムを投げられたぐらいのダメージしかないとして、その消しゴムが何発も何十発も投げつけられたらどうだ?痛くなくても、ストレスになる。)
「いい加減しろぉっ!」
禍災龍が強引に旋回し、源城と楽奈美を振り落とそうとする。
激しい動きについていけず、引張蛸も巨重飛兎も体を禍災龍から離す。
「楽奈美さん!踏ん張りどころですっ!」
「おっけーです!」
源城も楽奈美も、足と片手でしがみつく。そして、攻撃をやめない。
片手による斬撃や拳撃は、不安定な状態で腰がはいらずダメージは微々たるもの。
しかし、禍災龍の防衛手段を耐え抜きちくちくと攻撃し続けれることで、幼稚で傲慢な黒龍の精神を削り取ることができる。
「うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいぃぃ!!」
禍災龍は宙返りや急カーブなどの強引な動きを繰り返しながら、空気を震わし呻く。
「楽奈美!源城さん!」
地上の波夢子が思わず叫ぶ。
「まだまだぁ!」
「あと5億年は耐えられるよっ!」
源城と楽奈美は叫び、自分と相手を鼓舞する。
「クソがぁっ!」
禍災龍は森の茂みに向けてギュンと飛行する。
「源城さん、これはっ!?」
「ヤツは、生い茂る森の木に背中をぶつけて、俺達を攻撃する気だ!」
「だとしたらどうする!?」
禍災龍が叫ぶ。
「逃げようとして俺から降りたら、木じゃなくて俺が殺す!」
「ぐっ!」
源城は呻く。策は1つある。しかし、間に合う保証はない。
「だがこれは……」
「源城さん!その思い付きで行きましょう!」
ためらう源城だったが、楽奈美の声でハッとなる。
きっと楽奈美は、源城が何か策を思いついたのだろうぐらいしかわかっておらず、具体的な内容は知らないだろう。
しかし、その力強い声は、悩む源城の背中を押した。
(一か八かだ!)
「湖ナメクジ!永久蝦蟇」
源城は源城の体ほどの大きさのナメクジと肩乗りサイズのガマガエルを、進行方向の木々の下に生成する。
「無駄だぜぇ!そんな畜生2匹で何ができるんだよぉ!」
禍災龍が空を切り裂き、森へ突っ込む。
「何ができるかって……せいぜい、お前を止めるぐらいだ!」
源城が魔力を込めると眼前の木々が地に沈んでいく。
「なんだぁっ!?」
湖ナメクジによって地面を湖にしたことで木々が下に降りていく。
「今の木々は湖に半分浮いている状態だ!禍災龍!お前が身をひるがえして俺らをあの木々に突っ込ませても、放置してある買い物カートにぶつかるみたいに木々が衝撃を吸収して、大したダメージにはならない!」
「めんどくせぇっっ、だが、森には木がいくらでもあるよなぁ!」
禍災龍は前進をやめない。その勢いのまま、沈みつつある木々より高度を上げる。
そして源城の眼前には、湖ナメクジの影響を受けていない木々が見える。
「一番前の木が駄目なら2番目の木だ。それもお前が沈めるなら3番目の木だ。てめぇはそのセコい技を、あと何回やるつもりなんだぁ?」
「…………0回だ」
「あん?」
源城の呟きに、禍災龍は怪訝そうに声を出す。
あと少しで、湖ナメクジのせいで沈みつつある木々を超え、次の木々も目前に迫ろうとしている。
「あと0回で十分だ!」
源城が魔力を込めると、禍災龍の真下から木が伸びる。
「なんだっ、まるで急成長したみたいにっ!?」
不意に高度を増した木々が、禍災龍の喉に食い込み、バランスを崩した禍災龍は、腹から木々に衝突する。
「ぐあぁぁぁっっ!?」
(……永久蝦蟇に土を食わせていたのが、まさかこんなところで役に立つとはな)
源城は、以前、楽奈美と波夢子を逃がして1人で禍災龍に立ち向かった時に、禍災龍の攻撃から逃れるために地中に潜った。その時に地表ぎりぎりまで土を掘っていて、掘った土は源城の動けるスペースを確保するために永久蝦蟇の口の中に入れていた。
そして、その土が永久蝦蟇の口から湖の中に一気に放出されたことにより、沈みかけの木々の高度が底上げされ、禍災龍の不意を突いたというわけだ。
しかも禍災龍が衝突してすぐに湖ナメクジを解除したため、木々の根が地面に埋まり、禍災龍への衝撃を強める。
禍災龍が地面に崩れ落ち、小枝の折れる音と地面に物が落ちる音がする。
禍災龍の背に乗ったままの源城は攻撃を再開しようとしたが、ふと周囲を確認すると、禍災龍に気づかれないようにハンドサインで指示を出す。
(……せっかくなら、派手にやろう!)
源城は戻ってきた永久蝦蟇の口から、指輪を取り出す。
指輪には、ブラックオニキスを思わせる、白い縞模様の入った黒く滑らかな石がはまっている。
「禍災龍……お前に敗北を見せてやるよ」
体勢を立て直した禍災龍の前で、源城はその指輪をはめる。
「…………亜時空の過遺物!!」
その瞬間、源城の全身から黒い瘴気が噴き出る。
次回、第15話、クライマックス!




