第13話 人員自重
(クソがっ!誰もいねぇ!)
禍災龍は、苛立っていた。
源城との戦いは、倒せそうで倒せないようなストレスが溜まるものだった。
禍災龍が冒険者達を襲撃し続け、いつしか恐怖の具現化として扱われるようになったというのに、源城は落ち着いた表情を崩さず、いくら追い詰めても、対抗策があるように見えてしまう。
(雑魚キャラ必死になって殺すのわけわかんねぇから別のやつ殺そうと思ったけど……誰もいねぇ)
源城との戦いに時間をかけたせいで、その前に襲った楽奈美と波夢子の姿も見失ってしまい、次の標的を探すとこから始まってしまった。
(ホントマジでウザい。こんなんじゃ雑魚どもがダンジョンから逃げちまう)
「くそがぁぁぁあ!!」
禍災龍は蒼炎を地表に吐いた。
物にあたるようなただの癇癪1つで、蒼炎を浴びた地面は焼け焦げ地表の生物は激しい火傷を負い、命さえ失われる。
(……ん?いや、待てよ)
禍災龍はそこであるアイデアを思いつく。
(わかるじゃねぇか……雑魚どもがどこに行くかなんて)
禍災龍はごつごつとした口を歪めニンマリと笑う。
(待ってろよカス共……俺が飽きるまで殺してやる)
そしてその場所へ、空を裂き飛翔した。
地表に死と焼失の跡を遺して。
源城とダンジョン運営局のヤグラ、ミノが、楽奈美と波夢子の所に駆け付けると、重傷の冒険者2人が走りながら前に出て、早く助けてほしいとせがんだ。
ヤグラが2人に、なぜダンジョン運営局の受信機に反応がないのかと尋ねると、目をそらし話を切り上げたそうにしながら、発信機を付けていたが道中で壊れただけと早口で応える。
(あの様子だと、壊れたっていうのは嘘で、初めから発信機を付けてなかったんだろうな。ダンジョン運営局の勧めを断った負い目があってつい誤魔化してしまった、と)
源城はそう推測した。
冒険者達は、魔道具起動装置に発信機を付けるなどして、自分の居場所をダンジョン運営局へ伝える何かを装備することを推奨される。
それは義務ではないが、仮にそれを無視したうえでダンジョン運営局に助けを求めるとしたら、結構気まずいだろうと、源城は思った。
運営局は、想定外の重傷冒険者2人を治療するためには、ヤグラとミノの両方の治癒魔法が必要であると判断し、4人乗りの迷彩車輪の乗客は、運営局の2人と重傷の冒険者2人で埋まってしまった。
更に間の悪いことに、ヤグラとミノで協力して迷彩車輪を維持しつつ重傷者の治癒をし続けるために魔力を大量に消費してしまうため、ダンジョン運営局の職員が再度救出に来るまで非常に時間がかかるらしい。
余った3人は、禍災龍に見つからないよう森に姿を隠しながら、自力でダンジョンの脱出を図ることとなり、現在に至る。
「歩きながら、ここまでの情報交換をしましょうか」
源城は、声を潜めながら楽奈美と波夢子の方を振り返ると、2人は頷く。
源城は、禍災龍と交戦したこと、魔力が尽きてダンジョン運営局に拾ってもらったことに加えて、禍災龍の基本情報について話す。
「魔法があんまり効かないのに、回復までできるんですかぁ!?」
楽奈美は小声で叫ぶ。潜伏というほどではないが、大声を出して目立つメリットもないので、みんな小声で話をしている。
「はい。禍災龍は魔法への耐性を持っています。そのためヤツ自身の炎を浴びせれば、効果的にダメージを与えられますが、それだけではダメージが足りずに回復されてしまいます」
「確かに、倒すのは無理っぽいですねっ」
「かなり厳しいと思います。あと、禍災龍の吐く炎にも、魔法への耐性があります。真正面から受けようとせず、避けることを考えてください」
そして、楽奈美と波夢子からは、源城と出会う前に、禍災龍から逃げていた時の話を聞いた。
「……ヨシミンさん、ですか」
源城は、名を知ったばかりの冒険者に思いをはせる。
「はい、強い爆弾人形を使う人で、自信満々で私達を勇気づけてくれました。でも、禍災龍に襲われた私たちをかばって…………きっと無事ではないと思います」
「そうですか……」
(結果論で言うなら、そのヨシミンさんは失敗した。周囲の慌ただしい環境を見れば、初心者2人を渦中に巻き込むことはリスクが大きい。早く引き返すべきだった。そう、後から言うことはできる。だが……)
「……人によって考え方は違うでしょうけど、その身を賭してでも初心者冒険者を救ったこと、俺はとても素晴らしいことだと思います」
「はい、ヨシミンさんはかっこいいです。語尾もかっこよかったし!」
それを聞いた波夢子は、怪訝な表情をした。
情報をある程度交換すると、森の中を淡々と進む。
楽奈美は大学の話やバイトの話など、とりとめもない雑談を何個も持っており、禍災龍の脅威に内心怯えている源城の顔にも笑みが浮かぶ。
一軒家ほどの大きさの禍災龍が入り込むのが難しいような生い茂った森を狙って進み、開けた場所は、周囲をよく確認して音を立てないよう早歩きで進む。
源城は往路を進みながら周囲の環境を覚えていたため、進みたい道とそうでない道を多少把握している。
そうしてゆっくりと物陰に隠れながら進むと、ダンジョン出口まであと数百メートルの開けた地点が見えてきた。
「俺は前を見ます。波夢子さんは、上をお願いします。」
「はい、水神鏡」
青いタイトなドレスに身を包んだ女性が生成される。彼女はゆったりと空を見上げ、カッと目を見開くと目が青色に光る。
水神鏡は、遠いところを見ることのできる魔法だ。源城が前を見て安全を確認している間、禍災龍が空から襲ってこないかを見ている。
源城は周囲を見渡す。茂みに覆われた開けた土地に、禍災龍の姿は見当たらない。
「周囲には禍災龍はいなさそうですね」
「空にもいなさそうです」
源城と波夢子は、安全そうという結論を出した。
「じゃあ、源城さん、ハムちゃん、行きましょう!」
「そうですね」
「ええ」
3人はゆっくりと歩を進める。あと数百メートル歩けば、念願の脱出が叶 「っっ!?」
源城の全身に怖気が走る。
(この感覚は……まるで……っ!)
「どうしましたか、源城さn」
「禍災龍がいるっっ!」
源城が小さく鋭く叫んだ瞬間、
森の茂みから、蒼炎が放たれた。
「波夢子さん!」
「引張蛸!」
波夢子は元いた茂みに潜ませていた引張蛸を操り、タコの足で源城達を絡め取り、強引に引き戻す。
蒼炎は源城の目の前1メートル先を掠め、熱風が体を強く炙る。
「ぐっ……くそっ……!」
源城は呻く。
「ギャーハハハッッ!アーハハハッ、傑作だぜ雑魚ども!やっぱりここに来るよなァ!」
禍災龍は、つんざくような声で高笑いした後、木々をなぎ倒しながら姿を現す。
「あいつ……ダンジョンの出口付近でずっと待ち伏せしてたのか!」
楽奈美の叫びに源城は拳を握り締める。
(くそっ、素直に動きすぎて裏目を引いたっ……!何時間かけてでも、ダンジョン運営局を待って潜伏するべきだったか……!?)
源城の心を後悔が襲うが、急いで気持ちを切り替える。
(いや、禍災龍がヤケになってテキトーにダンジョンを破壊していたら潜伏は悪手だ。ともかく、後悔するのは生き残ってからだ!)
「逃げられるわけないだろ!てめえら全員くっせぇ焼肉にしてやるよ!」
冒険者の思考の裏をかき奇襲する禍災龍と改めて対峙する源城、楽奈美、波夢子。
3人とも、禍災龍との激しい攻防で、程度の差はあれど大きく消耗しているのに対し、禍災龍は自らの治癒能力で無傷。
脱出までの距離は数百メートル、されどそれが最果てに見える。
だが最果てだろうと、なんだろうと、生きるためにはたどり着かなければならない。
「あれで行きますよ」
「了解です。シャチ駆!」
源城はタコの足を自分に巻き付け、シャチの形をした乗り物に乗る。
生き残るための作戦開始だ。




