第24話『魔王ちゃん、プレゼント・フォー・ユー その2』
甘い愛のこもった箱を抱き締めて、アタシは真っすぐに空を飛ぶ。
目指すは北の街。
翼をはためかせること1時間。
いつもの街はずれに到着したアタシは、ふわりと地面に降り立った。
人目につかないよう素早く茂みに身を隠し、指輪に魔力を込める。
「指輪に宿りしマナよ、アタシの姿を変えよ。我が姿は我がものにあらず!」
これでアタシの姿は、立派な人間へと早変わり。
ほんと便利ー!
ケーキの箱を持ち直し、街の中心部にあるマリーダの酒場を目指して歩き出す。
勇者……プレゼントを渡したら、どんな顔するかな?
もしかしたら……。
「チョコケーキ、ありがとう! すごく美味しいよ!」
「えへへー、喜んでもらえて良かった」
「ねえ、アイラ。ちょっと耳を貸してもらえるかな?」
「なぁに?」
「……甘いチョコケーキのあとは、もっと甘い君を食べたいんだよ☆」
なーんて、言われちゃったりしてーっ!!
あはは、やばーい!
妄想が止まらなーい!
ウキウキの足取りで通りを行くアタシ。
太陽もポカポカだし、幸せ妄想も捗るってもの。
「あれ、アイラちゃん?」
「ふぇ?」
そのとき不意に声を掛けられ、アタシは振り返る。
そこにいるのは知らない男の人。
むー、ナンパだったらお断りなんですけど。
とか思ってたら、今度は通りを行く女の人たちが足を止めた。
「わぁ、今日も可愛い!」
「アイラちゃん、こっち向いてー!」
「ライブ最高だったよ!」
気が付けば、沢山の人が集まってきて黒山の人だかり。
アイドル活動のおかげで、アタシも結構有名になったみたい。
えへへ、素直に嬉しい。
これなら、目標としてる人間と魔族が共に手を取り合う世界も、そう遠くはないのかもしれない。
でも――。
今日の目的はそれじゃない。
アタシはみんなに手を振ると歩き出す。
最初は規則正しく動いていた足も、いつのまにか早足になり――。
マリーダの酒場が見えたときには、笑顔で走り出していた。
「到着ー!」
跳ねるようにたどり着いたアタシは、サササッと壁際に移動。
そして、こっそり窓から中を覗く。
「……いた!」
椅子に座って皆と談笑してる勇者ユウ。
あの爽やかな笑顔は……。
はわーっ!!
今日も、めっちゃ尊い!
ドキドキと跳ね回るような心臓を胸の上から押さえつけ、アタシは深呼吸を繰り返す。
「……よし!」
勇者に渡すんだ!
アタシが作ったこのケーキを!
覚悟を決めて、正面の扉へと足を向けた――。
「ちょっと待ちなよ!」
——瞬間、背後からかけられる声。
振り返ると、鋭い雰囲気を持つ女性がそこには立っていた。
誰だろう?
初めて見る顔だ。
首をかしげるアタシに、女性は嫌味っぽく鼻を鳴らす。
「弟が、ずいぶんと世話になったようだねぇ」
「弟?」
「そうかい、知らないってかい」
女性は息を吐くと、親指でビッと自分自身を指し示した。
「あたいの名前はイヤーナ! あんたに世話になった、ワルスギルの姉さね!」
その背後から、ひょこっと顔を出す男。
隠れてるようで、体が大きくて全然隠れてない大男。
「げっ!」
思わず声が出た。
それは、ジャガイモジャガーのワルスギルだった!
「弟は、あんたのことを考えると、動悸が止まらないんだってさ。可哀そうに……よっぽどのことを刷り込まれたんだろうねぇ」
「よっぽどのこと……」
脳裏に浮かぶ記憶。
絶対あれだ。
以前、ルイーダの酒場で正体を明かして大暴れしたことだ。
記憶はバルギウスが〈忘却〉の魔法で消してくれたはずだけれど、染みついた恐怖までは拭えないのかもしれない。
「さぁて、どう落とし前をつけてくれるんだい?」
「そんなこと言われても……」
鼻を鳴らすイヤーナに、アタシは頬をかく。
ギラリと光る、虎のような鋭い目つき。
色白で細身の体、その立ち振る舞いに隙はない。
それはまるで、獲物を狙う虎のよう。
その背後で、アタシに小さく手を振っているジャガイモな弟。
二人の見た目は似ても似つかないけれど……。
本当に姉弟なの?
「言っとくけど、あたいの通り名は【王威の猛虎】! 下手な言い逃れは通用しないから覚悟しときな!」
【おういのもうこ】……?
略して【おいも】!
こ、これは、まさしくジャガ男の姉!!
「姉ちゃん、もういいって!」
ジャガ男が、イモ姉の腕を引っ張る。
「何言ってんだい! いいことなんか、ありゃしないよ! 可哀想に……そこまでメンタルやられちまったのかい!?」
そうは言いますけど、お姉さん。
弟さんは、さっきからずっと手を振ってくるのですが。
脇をキュッと締め、恥ずかしそうに頬を赤らめて、遠慮がちに手を振る姿……。
乙女か!!
「まったく、腑抜けちまって……。それもこれも、あんたのせいだからね!」
「そうだそうだ! 俺の心を返せ、恋泥棒!」
「あんたが弟を惑わす元凶なんだよ!」
「そうだそうだ! アイラちゃんが可愛すぎるのが悪いんだ!」
「……お前は、ちょっと黙ってな!!」
「うっひぃ!」
姉の怒鳴り声に首をすくめる弟。
アタシは引きつった笑顔を浮かべる。
この状況、100%言い掛かり。
今までのアタシなら即暴れていただろう。
……でもね、今は違う!
アイドルの経験が、グッと踏みとどまらせてくれる。
引きつってるとはいえ、こめかみピクピクしているとはいえ、笑顔でいることを誰か褒めて!
そのとき、ジャガ男ことワルスギルがアタシの手元を見た。
視線は手の中の小箱。
その目が嬉しそうに輝く。
「おほっ! アイラちゃん、それ……俺へのプレゼント!?」
「あん? なんだ、そういうことかい」
イヤーナが笑う。
「確かに、うちに嫁に来るなら、そういう気遣いも必要だぁ――」
「違います」
にわかに喜びだす二人に、手を突き出してきっぱり否定する。
愕然とするワルスギル。
憤然とした表情のイヤーナ。
アタシの口から深いため息が漏れた。
「悪いけど、これ以上アナタたちに構ってる時間はないの」
帰りが遅くなったら、ウチの毒舌メガネに、
「ほら見たことですか」
って言われるのは目に見えている。
……それに。
早く勇者たんに逢って、めいっぱいの愛を補充したいじゃん!
早くケーキを食べてもらいたいじゃん!
勇者に、ファーストバイトしてみたいじゃん!!
って、それって結婚式!?
きゃー♡
二人でケーキ入刀して、初めての共同作業って言われちゃうやつ——!!!
あはは!
もー、やっばー!
勇者たん、アタシたちの未来には幸せが待っているよ!
「というわけで、サヨナラ~」
軽く手を振って、おイモな二人の目の前を通り過ぎようとする。
だけど、イモ姉さんがその手を強くつかんできた。
「まだ話は終わってないんだよ!!」
敵意を隠そうともしない瞳がアタシを睨む。
「アイドルだか何だか知らないけどさ、ちょっとチヤホヤされたからっていい気になってんじゃないよ!」
「……別に、いい気になんて」
「ハン、どうだか! ……あんた、アイラとか言ったよな」
「そんな、不良みたいな口のきき方……」
「あんたはアイラよりゴリラの方がお似合いだよ!」
な、なにぃ!?
言うに事欠いて、その言葉を選ぶかーっ!
一瞬放ったアタシの殺気に気付いたのか、ワルスギルが慌てて間に割って入る。
「だ、大丈夫だよ、アイラちゃん! ゴリラはゴリラでも、可愛いゴリラだから!」
むきーっ!
フォローになってないーっ!!
もー限界っ!
魔王であるこのアタシにここまで言うなんて、覚悟はできているんでしょうね!!
左の拳を強く握る。
はめていた変身の指輪が、ミシミシと音を立てた。
いいわ……アタシの本当の姿を見せてやる!
後悔しながら昇天するがいいっ!!!
体から溢れ出す魔力が、周囲の物を揺り動かす。
ガタガタと震える木々や建物に、店の中から沢山の人が飛び出してきた。
「なんだ!? 何が起こった!?」
「地震か!?」
バルギウスには目立たないようにって言われていたけれど……知るもんか!!
アタシを怒らせたこの二人が悪いんだ!!
指輪に更なる力が入っ――。
「あれ? アイラ?」
不意に響く声。
清涼感のある声。
この、すべてを包み慈しむ、優しい声は……!
目を向ければ――勇者ユウ!
アタシが愛してやまない人が、そこにいた!!
「やっぱりアイラだ!」
ニコッと微笑むその姿。
はわーっ!
太陽みたいな笑顔。
はわわーっ、今日も眩しすぎるってー!!!
胸の中の怒りは、あっという間に浄化され。
今や、アタシ自身が昇天しそうなくらいだった……!!
~その後のアイラ&勇者ユウ~
「久しぶりだね、アイラ」
「う、うん!」
「大きな声が聞こえたけれど、どうかしたの?」
「そ、それは……」
「話してくれないと状況がわからないよ。五里霧中の状態ってやつだよ?」
「ぐはっ! ゴリ夢中!」
「でもさ、僕、またアイラに会いたいなって神様に願ったんだ。これって、ご利益があったってことかな?」
「ぐふっ、ゴリ役!!」
「ど、どうしたのアイラ、口から血を吐いてるよ!?」
「もう……アタシのHPはゼロです……」
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「アイラ可愛い!」
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