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魔王ちゃん、恋に恋する5秒前っ! 〜最強魔王の秘密ごと、恋愛レベル・ゼロから始める勇者くんとの恋事情〜  作者: 朝比奈 架音


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第24話『魔王ちゃん、プレゼント・フォー・ユー その2』

 甘い愛のこもった箱を抱き締めて、アタシは真っすぐに空を飛ぶ。

 目指すは北の街(ノーデンシュタット)


 翼をはためかせること1時間。

 いつもの街はずれに到着したアタシは、ふわりと地面に降り立った。

 人目につかないよう素早く茂みに身を隠し、指輪に魔力を込める。


「指輪に宿りしマナよ、アタシの姿を変えよ。我が姿は我がものにあらず!」


 これでアタシの姿は、立派な人間へと早変わり。

 ほんと便利ー!


 ケーキの箱を持ち直し、街の中心部にあるマリーダの酒場を目指して歩き出す。

 勇者……プレゼントを渡したら、どんな顔するかな?

 もしかしたら……。


「チョコケーキ、ありがとう! すごく美味しいよ!」

「えへへー、喜んでもらえて良かった」

「ねえ、アイラ。ちょっと耳を貸してもらえるかな?」

「なぁに?」

「……甘いチョコケーキのあとは、もっと甘い君を食べたいんだよ☆」


 なーんて、言われちゃったりしてーっ!!

 あはは、やばーい!

 妄想が止まらなーい!


 ウキウキの足取りで通りを行くアタシ。

 太陽もポカポカだし、幸せ妄想も(はかど)るってもの。


「あれ、アイラちゃん?」

「ふぇ?」


 そのとき不意に声を掛けられ、アタシは振り返る。

 そこにいるのは知らない男の人。

 むー、ナンパだったらお断りなんですけど。

 とか思ってたら、今度は通りを行く女の人たちが足を止めた。


「わぁ、今日も可愛い!」

「アイラちゃん、こっち向いてー!」

「ライブ最高だったよ!」


 気が付けば、沢山の人が集まってきて黒山の人だかり。

 アイドル活動のおかげで、アタシも結構有名になったみたい。

 えへへ、素直に嬉しい。

 これなら、目標としてる人間と魔族が共に手を取り合う世界も、そう遠くはないのかもしれない。


 でも――。

 今日の目的はそれじゃない。

 アタシはみんなに手を振ると歩き出す。

 最初は規則正しく動いていた足も、いつのまにか早足になり――。

 マリーダの酒場が見えたときには、笑顔で走り出していた。


「到着ー!」


 跳ねるようにたどり着いたアタシは、サササッと壁際に移動。

 そして、こっそり窓から中を覗く。


「……いた!」


 椅子に座って皆と談笑してる勇者ユウ。

 あの爽やかな笑顔は……。

 はわーっ!!

 今日も、めっちゃ尊い!


 ドキドキと跳ね回るような心臓を胸の上から押さえつけ、アタシは深呼吸を繰り返す。


「……よし!」


 勇者に渡すんだ!

 アタシが作ったこのケーキを!


 覚悟を決めて、正面の扉へと足を向けた――。


「ちょっと待ちなよ!」


 ——瞬間、背後からかけられる声。

 振り返ると、鋭い雰囲気を持つ女性がそこには立っていた。

 誰だろう?

 初めて見る顔だ。


 首をかしげるアタシに、女性は嫌味っぽく鼻を鳴らす。


「弟が、ずいぶんと世話になったようだねぇ」

「弟?」

「そうかい、知らないってかい」


 女性は息を吐くと、親指でビッと自分自身を指し示した。


「あたいの名前はイヤーナ! あんたに世話になった、ワルスギルの姉さね!」


 その背後から、ひょこっと顔を出す男。

 隠れてるようで、体が大きくて全然隠れてない大男。


「げっ!」


 思わず声が出た。

 それは、ジャガイモジャガーのワルスギルだった!


「弟は、あんたのことを考えると、動悸が止まらないんだってさ。可哀そうに……よっぽどのことを刷り込まれたんだろうねぇ」

「よっぽどのこと……」


 脳裏に浮かぶ記憶。

 絶対あれだ。

 以前、ルイーダの酒場で正体を明かして大暴れしたことだ。

 記憶はバルギウスが〈忘却(フォーゲット)〉の魔法で消してくれたはずだけれど、染みついた恐怖までは拭えないのかもしれない。


「さぁて、どう落とし前をつけてくれるんだい?」

「そんなこと言われても……」


 鼻を鳴らすイヤーナに、アタシは頬をかく。

 ギラリと光る、虎のような鋭い目つき。

 色白で細身の体、その立ち振る舞いに隙はない。

 それはまるで、獲物を狙う虎のよう。


 その背後で、アタシに小さく手を振っているジャガイモな弟。

 二人の見た目は似ても似つかないけれど……。

 本当に姉弟なの?


「言っとくけど、あたいの通り名は【王威(おうい)猛虎(もうこ)】! 下手な言い逃れは通用しないから覚悟しときな!」


()()()うこ】……?

 略して【おいも】!

 こ、これは、まさしくジャガ男の姉!!


「姉ちゃん、もういいって!」


 ジャガ男が、イモ(ねえ)の腕を引っ張る。


「何言ってんだい! いいことなんか、ありゃしないよ! 可哀想に……そこまでメンタルやられちまったのかい!?」


 そうは言いますけど、お姉さん。

 弟さんは、さっきからずっと手を振ってくるのですが。

 脇をキュッと締め、恥ずかしそうに頬を赤らめて、遠慮がちに手を振る姿……。

 乙女か!!


「まったく、腑抜(ふぬ)けちまって……。それもこれも、あんたのせいだからね!」

「そうだそうだ! 俺の心を返せ、恋泥棒!」

「あんたが弟を惑わす元凶なんだよ!」

「そうだそうだ! アイラちゃんが可愛すぎるのが悪いんだ!」

「……お前は、ちょっと黙ってな!!」

「うっひぃ!」


 姉の怒鳴り声に首をすくめる弟。

 アタシは引きつった笑顔を浮かべる。


 この状況、100%言い掛かり。

 今までのアタシなら即暴れていただろう。

 ……でもね、今は違う!

 アイドルの経験が、グッと踏みとどまらせてくれる。

 引きつってるとはいえ、こめかみピクピクしているとはいえ、笑顔でいることを誰か褒めて!


 そのとき、ジャガ男ことワルスギルがアタシの手元を見た。

 視線は手の中の小箱。

 その目が嬉しそうに輝く。


「おほっ! アイラちゃん、それ……俺へのプレゼント!?」

「あん? なんだ、そういうことかい」


 イヤーナが笑う。


「確かに、うちに嫁に来るなら、そういう気遣いも必要だぁ――」

「違います」


 にわかに喜びだす二人に、手を突き出してきっぱり否定する。

 愕然(がくぜん)とするワルスギル。

 憤然(ふんぜん)とした表情のイヤーナ。

 アタシの口から深いため息が漏れた。


「悪いけど、これ以上アナタたちに構ってる時間はないの」


 帰りが遅くなったら、ウチの毒舌メガネに、

「ほら見たことですか」

 って言われるのは目に見えている。


 ……それに。

 早く勇者たんに逢って、めいっぱいの愛を補充したいじゃん!

 早くケーキを食べてもらいたいじゃん!

 勇者に、ファーストバイト(あーん)してみたいじゃん!!

 って、それって結婚式!?

 きゃー♡

 二人でケーキ入刀して、初めての共同作業って言われちゃうやつ——!!!


 あはは!

 もー、やっばー!

 勇者たん、アタシたちの未来には幸せが待っているよ!


「というわけで、サヨナラ~」


 軽く手を振って、おイモな二人の目の前を通り過ぎようとする。

 だけど、イモ姉さんがその手を強くつかんできた。


「まだ話は終わってないんだよ!!」


 敵意を隠そうともしない瞳がアタシを睨む。


「アイドルだか何だか知らないけどさ、ちょっとチヤホヤされたからっていい気になってんじゃないよ!」

「……別に、いい気になんて」

「ハン、どうだか! ……あんた、アイラとか言ったよな」

「そんな、不良みたいな口のきき方……」

「あんたはアイラよりゴリラの方がお似合いだよ!」


 な、なにぃ!?

 言うに事欠いて、その言葉を選ぶかーっ!


 一瞬放ったアタシの殺気に気付いたのか、ワルスギルが慌てて間に割って入る。


「だ、大丈夫だよ、アイラちゃん! ゴリラはゴリラでも、可愛いゴリラだから!」


 むきーっ!

 フォローになってないーっ!!


 もー限界っ!

 魔王であるこのアタシにここまで言うなんて、覚悟はできているんでしょうね!!


 左の拳を強く握る。

 はめていた変身の指輪が、ミシミシと音を立てた。


 いいわ……アタシの本当の姿を見せてやる!

 後悔しながら昇天するがいいっ!!!


 体から溢れ出す魔力が、周囲の物を揺り動かす。

 ガタガタと震える木々や建物に、店の中から沢山の人が飛び出してきた。


「なんだ!? 何が起こった!?」

「地震か!?」


 バルギウスには目立たないようにって言われていたけれど……知るもんか!!

 アタシを怒らせたこの二人が悪いんだ!!


 指輪に更なる力が入っ――。


「あれ? アイラ?」


 不意に響く声。

 清涼感のある声。

 この、すべてを包み(いつく)しむ、優しい声は……!


 目を向ければ――勇者ユウ!

 アタシが愛してやまない人が、そこにいた!!


「やっぱりアイラだ!」


 ニコッと微笑むその姿。

 はわーっ!

 太陽みたいな笑顔。

 はわわーっ、今日も眩しすぎるってー!!!


 胸の中の怒りは、あっという間に浄化され。

 今や、アタシ自身が昇天しそうなくらいだった……!!




~その後のアイラ&勇者ユウ~


「久しぶりだね、アイラ」

「う、うん!」

「大きな声が聞こえたけれど、どうかしたの?」

「そ、それは……」

「話してくれないと状況がわからないよ。五里霧中(ごりむちゅう)の状態ってやつだよ?」

「ぐはっ! ゴリ夢中!」

「でもさ、僕、またアイラに会いたいなって神様に願ったんだ。これって、ご利益(りやく)があったってことかな?」

「ぐふっ、ゴリ役!!」

「ど、どうしたのアイラ、口から血を吐いてるよ!?」

「もう……アタシのHPはゼロです……」



 最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!


「面白い」

「続きが読みたい」

「更新が楽しみ」

「アイラ可愛い!」


 と、少しでも思って頂けましたら、

 ブックマークや、下にある☆☆☆☆☆から作品の応援を頂けたら嬉しいです。


 これからもどうぞよろしくお願いします!

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