第23話『魔王ちゃん、プレゼント・フォー・ユー その1』
玉座の間に、重たい声が響く。
「はぁ~~~~~~~~~……」
アタシの魂の底から絞り出された、ため息だ。
石造りの高い天井に反響して、なんだか余計に虚しく聞こえる。
「どうしたのですか、アイラ様?」
隣のバルギウスが、少し首を傾げてアタシを見た。
「今日は、いつもより雰囲気が暗いですよ?」
アタシはゆっくりと顔を上げる。
そして、じろりと思いっきり睨みつけた。
「……悪いの?」
「え?」
「魔王が陰キャで何が悪いーっ!!」
バンッ!
と、玉座の肘掛を強く叩く。
「そもそもね、魔王っていうのは闇に生きる者たちの王なの! 日向でキャッキャするような陽キャなわけないでしょ!!」
「はあ……」
「明るく前向きな陽キャ魔王? そんなの、アタシに言わせれば、自覚の足りないただの偽物よ!!」
「……それ、いつものご自分に喧嘩売っておられます?」
バルギウスは、やれやれというように肩をすくめた。
「それで、今日はいったいどうされたのですか?」
「……できないんだもん」
「できない? 何がです?」
「勇者へのプレゼント……色々作ってみたけど、ぜんぜん上手くいかないんだもん!」
勇者へのプレゼント。
それは、アタシのアイドルライブ・イベントで勇者がゲットしたプレゼント権。
あのときの彼の嬉しそうな顔は、今でも瞳に焼き付いている。
だからこそ、最高のプレゼントを贈りたいのにぃぃぃ!!
「アイラ様……」
バルギウスがアタシの肩に優しく手を置いた。
「大丈夫ですよ。その気持ちが大切なのです。自分のことを想って作ってくれたものを嫌がる者などおりません。もし、そんな輩がいるのであれば――」
細められたその目が冷たく光る。
「私がオシオキして差し上げます」
「バルギウス~~~!」
アタシは思わず涙目になった。
普段は毒舌キャラなのに、こういうときはとても頼りになる。
「それで、アイラ様は何をお作りになられたのです?」
「えへへー、よくぞ聞いてくれました♪」
アタシはテーブルの下から箱を取り出すと、どん! とその上に置いた。
中から取り出すは……。
「ほう? 目玉の垂れたゾンビな獣のヌイグルミですか。頭から飛び出た綿の脳ミソがリアルでいいですね」
「……可愛いネコちゃんのつもりなんだけど」
「えーと……」
バルギウスは頬をかく。
「あ、アイラ様、他には?」
「あるよ!」
続いて制作第二弾をテーブルの上に置く。
「これー!」
「おお、良いじゃありませんか、生首コレクション! 戦いに勝利した証として、相手の首を腰から下げられるようにしたのですね! この苦悶に歪んだ表情、最高です!」
「……満面の笑みを浮かべた、アタシと勇者の顔のキーホルダーなんですけど」
「あ……こ、こちらなんて最高じゃないですか!」
バルギウスは、慌てたように別の物を取り出した。
「この可愛らしいバッグは素晴らしい! とてもコンパクトなのに……底が抜けてるから無限に物が入りますね」
「ううぅ……!」
「で、では、こちら!」
最後の物を持ち上げる。
「こ、この毒々しい半固形の茶色い物体! こういう謎の物の方が、使い手の想像力を掻き立てるというものです!」
「それ、手作りチョコレートなんですけど……」
『ウメェェェェェ、ウメェェェェェェ』
「チョコレートが鳴いておられますが……」
「美味しくなぁれって気持ちを込めたら、魂が宿りました」
……沈黙。
……長い沈黙。
「アイラ様、申し訳ありません。私、たった今からオシオキされる側に回ります」
「こ、この、裏切者ーっ!!」
涙目のアタシを前にバルギウスは、
ふぅ……。
と、深いため息をついた。
「仕方ありません、今回は私がお手伝いいたします」
それから10分後。
場所は変わって、ここは魔王城厨房。
数々の材料の前にバルギウス、そしてエプロン姿のアタシが立っていた。
「では、勇者への贈り物は、チョコレートケーキにしましょうか」
「チョコケーキ!!」
甘い幸せを運ぶ黒いケーキ!
それ、絶対喜ばれるやつー!
「まずはスポンジを作ります。卵黄と溶かしたチョコレートを混ぜ――」
「任せて!」
卵を手に取り、親指に力を籠めた——。
——瞬間!
ぼんっ!
卵が爆発した。
「ぎゃっ!?」
「……アイラ様、力を入れすぎです」
「うぅ……」
「では、次にメレンゲを泡立てるのですが……」
「今度こそ、任せて!」
名誉挽回!
置いてあった泡だて器を強く握りしめる。
「泡だて器を持ち上げたとき、メレンゲの先が角のように立つくらいまで、掻き混ぜてくださいね」
「わかった!」
ツノが立つくらいに、ぐるぐるぐるぐる~~~~。
「アイラ様、アイラ様! ストップです! 角ではなく竜巻が立っております!!」
「くうぅ!」
「……では、この後は出来上がったスポンジ生地をオーブンで焼くのですが……」
「ねぇっ! アタシの必殺技、〈一夜の灼熱断罪破〉を使ったら、時短でできないかな?」
天に向かって渦巻く炎は、闇を昇る煉獄の焔。
スポンジなんて瞬時に……。
「じろっ!」
「……消し炭だよね」
そんなこんなで悪戦苦闘すること数時間。
チョコホイップを乗せて、お好みフルーツを添えて……。
「……できたー!」
テーブルの上に置かれた立派なチョコレートケーキに、アタシは拍手を送る。
「なんとか完成しましたね」
「うん! ありがとう、バルギウス!」
「いえいえ。それでは仕上げに……ゴニョゴニョゴニョ」
え!?
バルギウス、呪文を唱えた!?
「何をしたの?」
「いえ」
バルギウスはアタシに向き直ると微笑んだ。
「ただの、美味しくなる〝おまじない〟ですよ」
「おまじない?」
「アイラ様も、勇者が食べる直前に両手でハートを作って、美味しくなぁれ♡ って言ってくださいね」
「えええええええ!?」
ケーキをリボンのついた小箱に入れると、バルギウスが変身の指輪を手渡してくれた。
もう何度も使用しているこの指輪。
使い方はバッチリ!
「アイラ様、勇者はマリーダの酒場にいるようですよ」
水晶球を覗き込みながらバルギウスは言う。
こちらもおなじみ魔道具、遠見の水晶球だ。
「行ってくる!」
「くれぐれも悪目立ちしないように」
「わかってる」
「今夜はオムライスですからね。ちゃんと夕飯までには帰ってくるのですよ? アイラ様は制御を失った熱気球みたいに、すぐにどこかに飛んで行っちゃいますから」
「そ、そんな子じゃないもん!」
バルギウスに反論しつつ、アタシは窓を開く。
空は、今日も気持ち良いくらいの快晴だった。
「アイラ様、こちらもお持ちになってください」
飛び出そうとするアタシに、彼が封筒を差し出してきた。
「ん~? 何これ?」
「こちらは取説になります」
「とりせつ~?」
「困ったことがあったら読んでくださいね」
う~ん?
よくわからないけれど、とりあえずポケットに入れておこう。
「それじゃ、行ってきます!」
アタシは背中に翼を生やすと、窓から飛び出した。
「勇者、楽しみに待っててね!」
どこまでも青く澄んだ世界に、アタシの声が響き渡っていった。
~その後のバルギウス&チョコレート~
「さてと……アイラ様が派手に散らかしたものを片付けますか」
『ウメェェェェ』
「……この〝魂が宿ったチョコレート〟はどうしたものか」
『ウメェ、ウメェェ』
「半固形だから、活動範囲も限られてきますね」
『ウメ……』
「ふふ、良いことを思いつきましたよ」
『ウメェ?』
「これをこうして、ここに入れて……できました。〝ゾンビ猫ヌイグルミ〟in〝魂のチョコレート〟。これで自由に動けますね」
『ウメェ、ウメェェェ♪』
「ふふふ、お前も気に入ってくれましたか。良かったら、この〝底が抜けた無限バッグ〟を住処にしてください。底は、〝二人の顔のキーホルダー〟で塞げば……ほらっ」
『ウメッ!』
「アイラ様も、お作りになったプレゼントが活用されて喜ぶことでしょう、ふふふ」
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