第22話『魔王ちゃんオンステージ! その3』
会場に流れ出す入場曲。
「それじゃ行ってくるっ!」
「頑張ってください、アイラ様」
アタシはバルギウスに手を振ると、ステージ中央に向かって走り出す。
この失態はパフォーマンスで取り返すしかない!
入場曲に続いて流れるのは、歌唱力チェックのときに流したバルギウスのあの曲。
タイトルは『恋の魔法っ!』とアタシが名付けた。
明るくてノリが良くて、ライブの最初にピッタリ!
アタシは拡声杖を強く握ると、大きく息を吸い込んだ。
そして数分後、
「――――♪!!」
恋の魔法っ! を無我夢中で歌い切ったアタシは肩で息をする。
後ろでは、各楽器が曲の終わりに向かってかき鳴らされている。
ふと見上げた空は、いつの間にかすっかり夜になり、そこには綺麗な月が顔を出していた。
アタシは、今の自分にできる最大のパフォーマンスで歌った。
だから曲の間は観客席の反応を見る余裕はなくて……。
みんな、どんな顔をしてるんだろう?
しかめっ面になってたりしない?
それどころか、帰っちゃう人もいたりしない!?
とか……。
ネガティブなことが頭をよぎって、うううっ。
視線を下げるのがめっちゃ怖い!
いつからアタシはこんな弱い子になったんだろうってくらいだ。
そのとき、かき鳴らす楽器の音が止んで曲が終わった。
静まり返る場内。
――やっぱりダメだった……。
そう思った瞬間、観客席から割れんばかりの歓声が沸き起こった。
えっ!? えっ!?
慌てて前を見ると、沢山の笑顔がそこにあった。
皆の手には色とりどりの発光棒が握られて、それが一斉に天に向かって振り上げられている。
それはまさに圧巻の光景。
ちょ……何これ……。
ヤバい……ヤバいって……!
鳴り止まない声援。
おそるおそる手を振ってみると、それは更に大きくなる。
不安とか悩みとか、ここに来るまで沢山あった。
怖くて押しつぶされそうで涙した夜もあった。
だけど、それらは全て過去のものとなって。
そして……この瞬間、確実に言えることがある。
アタシは世界の中心にいるっ!
ちょーーーー気持ちいいんだけどっっっ!!!!
自己顕示欲は満たされマックス。
上から〈灯り〉の魔法で照らされた体は、指先までもキラキラと輝いている。
スポットライトが、こんなにも熱いことを初めて知った。
今、アタシはサイコーにアイドルしてるっ!
アタシは口の横に手を当てると、大きな声で叫んだ。
「初めまして、アイラですっ! 今日は最後まで楽しんでってください!! それと……さっきは急に戻っちゃってゴメンナサイっ!」
謝罪と同時に深く頭を下げる。
わざわざ言わなくてもいいのかもしれないけどー、なかったことにして進めるのはアタシの性分が許さないのだ。
我ながら、これでよく魔王をやってるなと思う。
そんなアタシに対し、客席のみんなは拍手で応えてくれた。
「気にするなー!」
「そういうときもあるよ!」
「頑張ってー!」
たくさんの温かい言葉!
超優しいっ!
「みんな、ありがとうっ! それじゃ二曲目、行くね! この曲は、アタシが作詞したものでー……」
――こうして、歌の部は驚くほどの大盛況で幕を閉じたのでした。
みんな知らない歌のはずなのに、手拍子したり声援をくれたり。
ほんと楽しかった!
で、今は一度舞台袖に戻ってしばしの休憩。
冷たい飲み物で喉を潤す。
このあとはイベントが一つある。
アタシが投げたボールをキャッチした人は、後日プレゼントがもらえるというもの。
今回のステージはそれでラストだ。
「アイラ様、楽しんでおられますね」
水分補給をしてるアタシにバルギウスが声をかけてきた。
その顔はクールに微笑んでる。
自分がプロデュースしたイベントがここまで大成功となると、さぞ鼻も高いだろう。
「ふふふ。アイラ様のお気持ちがもっと高まるよう、ファンの皆様の生声をお伝えしましょうか」
「ほぇ、生の声?」
「はい。精神感応で受信したてのものですよ」
えー!
ちょードキドキなんですけどー!
可愛さ振り切れてるとかー、最高のアイドル様とか言われちゃったりしたらどーしよー、えへっ☆
「では、一人目。『アイラって一生懸命なのが伝わってくるから、こっちも全力で応援したくなる。まぁ、歌もダンスも下手なんだけど』」
……んぁ?
「続いて二人目。『彼女の歌って、段々とクセになってくるから不思議。ある意味、心を揺さぶられる程の衝撃的な下手さというか』」
……えーと。
「そして三人目。『彼女を見てると悩みが吹き飛ぶわ。こんな子でも人前に立てるんだって勇気をもらえた! 下手の極みね』」
…………っく!
「更に四人目。『ククク……。あの逸材、我が私室に招きたいものだ。なあ、緋眼の王・エキゾース……』」
「もういい! もういいって!」
これ以上、聞いてられるかっ!
と、ファンの声とやらを遮ったアタシに、バルギウスは首を傾げる。
「おや、もうよろしいのですか?」
「テンション下げみぃ……マジつらたん、ぴえん」
「いけませんね。ラストイベントに向けてお気持ちは上げて頂かないと」
「だ、誰のせいだと思ってるのっ!」
毎度のことながらこの魔神は……。
思わず深いため息が漏れた。
「それでは最後にこの方の心の声を」
「まだ言うの……」
バルギウスはコホンと咳払いをすると、声のトーンを変えて話し出す。
「『アイラ、凄いや。あの日、北の街で会ったときよりキラキラと輝いて見える』」
え……北の街……?
「『あのときは僕に勇気をくれて……そして今は、こんなに沢山の人を笑顔にしている』」
こ、これって……!
「『これが、僕が求めていた世界なのかもしれない!』」
アタシはバッと顔を上げた。
「バルギウス! その心の声って勇者たん!?」
「その通りです。アイラ様の想いは、ちゃんと伝わっていますよ」
「そっか……そうなんだ」
心の中に湧き上がる気持ち。
胸がぎゅっとなって、視界がぼやけていく。
感極まって、思わず涙が溢れそうになる。
「アイラ様、泣いている暇はありませんよ。ステージをご覧ください」
彼が指差す先、ステージの真ん中。
そこには直径20センチくらいのピンク色のボールが台座の上に置いてある。
「ラストイベントは、あのボールを観客席に後ろ向きで投げて頂きます。大丈夫ですね?」
アタシは目を擦ると深くうなずく。
「投げるときは、ある程度の高さがあると取る方も取りやすいと思いますよ」
「わかった!」
「さあ、最後まで楽しんでください」
バルギウスに見送られ、アタシはステージへと走る。
沢山の拍手と声援、そして皆の笑顔に出迎えられて、ステージ中央の拡声杖を手に取った。
そして、大きく息を吸い込む。
「えっと……これが本日のラストイベントですっ! 今からアタシがボールを投げるので、キャッチした人には後日プレゼントが贈られますっ!」
その瞬間、割れんばかりの歓声。
まるで嵐の雨みたい。
応援してくれたみんなの声、本当に嬉しい。
でも……みんなゴメンナサイ!
このボールは……。
アタシは観客席をぐるっと見回した。
ちょうど真ん中の席、そこにはジッとこちらを見つめてる勇者たんがいる。
アタシは拡声杖を置くと、ピンク色のボールを手に取った。
そして、くるっと後ろを向く。
ねぇ、勇者たん。
普段のアタシたちは敵同士だけど……。
今日だけは同じ世界で繋がることができたと思う。
いつかまたきっと一緒に笑い合える。
そんな日を夢見て、このボールをアナタの元へ届けます。
「それじゃ行くよーっ!!」
アタシは笑顔で叫ぶと、ボールを持つ両の手に力を込めた。
勇者たん、アタシの気持ち、受け取ってくださいっ!
「えいっ!!」
ブーケトスの如く、後ろ向きでボールを投げる。
ある程度、高さがある方がキャッチしやすいというアドバイスを受けたアタシのボールは……。
『アイラ様! なんでそこに投げちゃうんですか!』
バルギウスからの緊急テレパシー。
そう、投げたボールは……アタシのほぼ真上に位置していた。
だ、だ、だって!
ある程度、高さがある方がいいって言うからー!
『だからって真上に投げることはないでしょう!』
ボールは振り返ったアタシのすぐ目の前に落ち、ワンバウンド、ツーバウンド、スリーバウンドして観客席に転がっていく。
その先に待ち受けているのは……。
「うおお、アイラ、アイラ、アイラァァァ! お前の愛は、この俺が確かに受け止めるぜぇぇ!!!」
よりにもよって、ジャガイモジャガーのワルスギル!!!
アイツには嫌な思い出しかない。
もーっ、最悪が過ぎるってーっ!!!
ボールは今、吸い込まれるようにワルスギルの手の中に……。
勇者たん、ごめん……。
思わず溢れた涙で視界が滲む──。
『……仕方ありませんね』
その瞬間、ステージに突風が吹いた。
風に乗ったボールは、ワルスギルの手をすり抜けて再び宙へと舞い上がる。
ある程度の高さまで上がったボールは、やがてゆっくりと落ちてきて……。
え……こんなことってあるの!?
ボールは、勇者たんの手の中にすっぽりと収まったの!
アタシ、今、奇跡を目の当たりにした!
愛の力は偉大なりっ!
『って、そんなわけないでしょう』
聞こえてくるのはバルギウスのテレパシーの声。
『私が風の精霊の力を使ってボールを操作したのですよ』
ふふっ、わかってるって!
ただちょっと言ってみたかっただけだって。
『まったく……。今回はアイラ様も頑張りましたからね。特別のご褒美ですよ』
うん!
バルギウス、ありがとう!
めっちゃ感謝してるっ!
こうしてアタシのアイドル活動は、大盛況のうちに幕を閉じたのでした。
人も魔物もきっと分かり合える日が来る。
そのときを信じて、アタシは走り続けます!
だから、これからも応援よろしくねっ!
アタシのアイドル活動はこれからだっ!
『アイラ様の本業は魔王であることをお忘れなく』
うっ……!
よ、よろしくねっ!
〜その後のアイラ&バルギウス〜
「勇者たんにプレゼント〜、勇者たんにプレゼント〜♪」
「それでは、何を贈るのか考えましょうか。魔族の誇りにかけて、下手なものは贈れませんよ」
「うん、任せてっ! ──というわけで、次回『魔王ちゃん、プレゼント・フォー・ユー!』お楽しみにねっ!」
「……えーと、アイラ様。誰に言ってるのですか?」
「あ、このフォー・ユーは勇者ユウとかかっててね」
「真面目に考えてください!」
最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!
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