第25話『魔王ちゃん、プレゼント・フォー・ユー その3』
「勇者!」
ぴょーん!
と、彼の前に飛び出したアタシは、例の小箱をそっと差し出す。
「えっ、これは?」
「チョコレートケーキ! 勇者に食べてほしくて、アタシが作ったの!」
「僕に!?」
「ほ……ほら、この前のライブのイベントのやつ! 投げたボールをキャッチしてくれた人にプレゼントを贈りますって!」
「うん、言ってたね」
「そ、そのプレゼントよ! それだけなんだから!」
なんだか急に恥ずかしくなってきちゃって、思わずそんなことを言ってしまった。
うぅ~、このアタシがツンデレキャラになるなんて……。
もー、顔がめっちゃ熱ーい!
あつあつやばばーっ!!
「プレゼント、そっか……」
言葉を噛み締めるような勇者たん。
箱を見つめるその顔が満面の笑みに変わっていく。
「ありがとう。すごく嬉しいよ!」
うぁ~!
笑顔が太陽より太陽してるー!!
あたたかくて、眩しくて。
もー、とろけちゃいそう~♡♡♡
恥ずかしさマシマシになって、アタシは更に箱を突き出した。
「ほ、ほら! チョコが溶けないうちに食べ――」
——その瞬間、横から伸びてきた手が箱を払った。
手の中の小箱が宙を舞う。
それはスローモーションのように、アタシの目に焼き付いて……。
そして、地面に叩きつけられた。
「ああっ!?」
慌てて拾い上げようとしたアタシの前で、足が小箱を踏み潰す。
「あらぁ?」
イヤーナの声が響いた。
「何かを踏んづけちゃったみたい。ごめんなさいねぇ」
そう言いながらも、どけることのない足。
潰れていく箱を前に、痛いくらいに胸が締め付けられる。
片方の口角をニヤリと持ち上げ、なおもグリグリと踏みにじるイヤーナ。
箱はもう原型を留めていなかった。
両膝をつくアタシの耳元に、イヤーナがそっと囁く。
「大切なものだったのかしらぁ? でも、ちゃんと持っていなかったあなたが悪いのよぉ」
そして、甲高い声で笑い出した。
キンキンと耳につく声。
勝利を確信したような姿。
アタシの中で、忘れていた怒りが再び顔を上げた。
絶対に許せない……!!!
——そのとき。
うつむくアタシの目に、一歩前に進み出る足が映る。
顔を上げると、それは勇者だった。
「……なんだい、ユウ。文句でもあるのかい?」
鋭い目つきでイヤーナがにらむ。
だけど勇者は目をそらさない。
「イヤーナさん、その足をどかしてください」
「あぁん? あたいに意見すんのかい? ヘタレ勇者が物申すなんて10年はや……」
「どかせと言ってるんだ!!」
言葉を遮って叫ぶ勇者。
その瞳は、見惚れるくらいに真っ直ぐだった。
「僕は、争いは好きじゃない。でも……」
勇者は言葉を切ると、更に一歩、強く前へ出る。
「アイラの想いを踏みにじるなら、それは絶対に許せない!!」
勇者ぁ!
アタシは胸に手を押し当てた。
彼の言葉が嬉しくて、瞳に熱いものが込み上げてくる。
勇者ユウは、誰かのために本気で怒れる人。
誰かのために、自分の限界を超えられる人。
だから、アタシは心惹かれた。
彼のことが大好きだ!!!
「ぐ……」
勇者の迫力に気圧されたように呻くイヤーナ。
二、三歩後ずさると、くるりと踵を返した。
「きょ……今日のところは、この辺で許してやんよ!」
吐き捨てるようにそう言って、足早に去っていく。
「え、ちょ……ね、姉ちゃん! 待ってくれよ~う!」
慌ててワルスギルも走り出す。
ギャラリーから割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
勇者は片膝をつくと、アタシに視線を合わせた。
「ごめん、アイラ。こんなことになっちゃって」
「ううん」
アタシは首を横に振る。
だって、アタシの心を守ってくれたのは、間違いなく勇者だから。
もし、あのまま怒りのままに力を開放していたら……。
この街は、地図から消えていたかもしれない。
「勇者、アタシの方こそゴメンね。プレゼント、ダメになっちゃった」
「……いや、まだ大丈夫!」
勇者は潰れた箱を拾い上げる。
「きっとまだ、食べられるところはあるから」
「えっ!? や……い、いいよ! また後で作るから……」
「いや――」
箱を見つめていた瞳がアタシに向く。
その表情が、ふっと柔らかくほどけた。
「今、食べたい」
勇者ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
爽やかなスマイルとイケメンなセリフ!!
ちょ、もー!!
そんなの反則だってばー♡♡♡
さっきまでの怒りは遥か遠く。
今はもう、心も顔も緩みっぱなし。
アタシ、このまま液体になっちゃうんじゃないかってくらい、最高に緩んでる!!
「……あれ?」
そのとき、不意に勇者が首を傾げた。
「アイラ、これ見て!」
満面の笑みで箱に手を入れる勇者。
そこから取り出されたチョコケーキは、見るも無残に潰れたもの……。
……ではなくて!!
踏みつけられた跡なんかどこにもない!
それどころか、まるで作りたてそのものだったの!
それは、バルギウスが〝美味しくなるおまじない〟をかけたあのときから、時間が止まったみたいな……。
……って、え!?
アタシは慌ててポケットから紙切れを取り出す。
出発前にバルギウスに渡された〝取説〟ってやつ。
そこにはこう書かれていた。
『アイラ様がこれを読んでるということは、何か困ったことが起きたのですね?』
バルギウス!?
そう、それは彼からのメッセージだった。
『アイラ様も文字が読めるようになって、私は嬉しい限りです』
う、うるさい!
読まなかっただけなんだってばー!
『さて、その困りごとですが。私の予想では……嫌な女に絡まれたり、箱を叩き落されたり、挙句の果てに踏み潰されたりといったところでしょうか』
予想えっぐ!
完璧に当たってるじゃん!
どれだけ先読み能力高いのよ!
『はっはっは、それほどでも』
ちょー!
先読み能力が高すぎて、手紙と会話してるみたいになってるー!!
『それはさておき。チョコケーキの件ですが、ご安心ください。こんなこともあろうかと〈防殻〉の魔法をかけておきました』
えっ!?
『踏まれたくらいではビクともしませんよ』
バルギウス~~~~ぅ!!
もー、最高に仕事できる男子っ!!
『あとは、アイラ様の番です。頑張ってくださいね』
うん!
ありがとう、バルギウス!!
アタシ、頑張るから!!
「――勇者!」
アタシは向き直ると、左胸の前で両手の指を合わせた。
人差し指、中指、薬指、小指を内側へと丸める。
そう、それは指で作ったハート♡の形。
そして、それを勇者の手の中のケーキに向かって突き出すと、アタシはこう言ったの。
「……美味しくなぁれ♡」
みるみる勇者の顔が赤くなる。
対するアタシだって顔が燃えるくらいに熱いし、きっと負けないくらい真っ赤だ。
勇者は頬をかきながら空を見上げて。
アタシは恥ずかしくなって俯いて。
でも、ちらっと顔を上げたら目が合っちゃって……。
胸の中が温かくなって、くすぐったくて――。
「ふふふっ」
思わず笑っちゃった。
それは勇者も同じだったみたいで。
「あはははは!」
「えへへへへっ」
二人で顔を見合わせて笑いあった。
……そのあと一緒に食べたチョコケーキは、世界中の何よりも甘く感じられた。
~その後のアイラ&バルギウス~
「――という感じだったの!」
「それは何よりでしたね。……ところで、本当にあの〝おまじない〟をやられたのですね」
「え、だってバルギウスがやれって言ったんじゃん! あれが、〈防殻〉の魔法を解除するキーワードなんでしょ?」
「いえ、〈防殻〉は箱から取り出せば自然と解除されるようになっていました」
「……は!? じゃ、じゃあ、食べる前に両手でハートを作って、美味しくなぁれ♡ っていうのは!?」
「冗談に決まっているじゃありませんか。まさか、本当にやられるとは思いもしませんでした」
「ちょーっ!! あれやるの、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだからねーっ!!!」
「ふふふ。まあ、いいではありませんか。……おや、そうこうしているうちに夕食の時間のようですね」
「わー、今夜はオムライスだよね! アタシの大好物!」
「それは何より。それではアイラ様、お願いいたします」
「……ケチャップを渡してきて、何をお願いしてるの?」
「もちろん、アイラ様の得意な〝おまじない〟ですよ」
「……は!?」
「ほら、ケチャップで♡を描いて、子猫みたいなポーズで、『美味しくなぁれ、にゃんにゃん♡』って言ってくださいね」
「あ、アタシ、そこまでやってなーーーい!!!」
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