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魔王ちゃん、恋に恋する5秒前っ! 〜最強魔王の秘密ごと、恋愛レベル・ゼロから始める勇者くんとの恋事情〜  作者: 朝比奈 架音


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第25話『魔王ちゃん、プレゼント・フォー・ユー その3』

「勇者!」


 ぴょーん!

 と、彼の前に飛び出したアタシは、例の小箱をそっと差し出す。


「えっ、これは?」

「チョコレートケーキ! 勇者に食べてほしくて、アタシが作ったの!」

「僕に!?」

「ほ……ほら、この前のライブのイベントのやつ! 投げたボールをキャッチしてくれた人にプレゼントを贈りますって!」

「うん、言ってたね」

「そ、そのプレゼントよ! それだけなんだから!」


 なんだか急に恥ずかしくなってきちゃって、思わずそんなことを言ってしまった。

 うぅ~、このアタシがツンデレキャラになるなんて……。

 もー、顔がめっちゃ熱ーい!

 あつあつやばばーっ!!


「プレゼント、そっか……」


 言葉を噛み締めるような勇者たん。

 箱を見つめるその顔が満面の笑みに変わっていく。


「ありがとう。すごく嬉しいよ!」


 うぁ~!

 笑顔が太陽より太陽してるー!!

 あたたかくて、眩しくて。

 もー、とろけちゃいそう~♡♡♡


 恥ずかしさマシマシになって、アタシは更に箱を突き出した。


「ほ、ほら! チョコが溶けないうちに食べ――」


 ——その瞬間、横から伸びてきた手が箱を払った。

 手の中の小箱が宙を舞う。

 それはスローモーションのように、アタシの目に焼き付いて……。

 そして、地面に叩きつけられた。


「ああっ!?」


 慌てて拾い上げようとしたアタシの前で、足が小箱を踏み潰す。


「あらぁ?」


 イヤーナの声が響いた。


「何かを踏んづけちゃったみたい。ごめんなさいねぇ」


 そう言いながらも、どけることのない足。

 潰れていく箱を前に、痛いくらいに胸が締め付けられる。

 片方の口角をニヤリと持ち上げ、なおもグリグリと踏みにじるイヤーナ。

 箱はもう原型を留めていなかった。


 両膝をつくアタシの耳元に、イヤーナがそっと(ささや)く。


「大切なものだったのかしらぁ? でも、ちゃんと持っていなかったあなたが悪いのよぉ」


 そして、甲高い声で笑い出した。

 キンキンと耳につく声。

 勝利を確信したような姿。

 アタシの中で、忘れていた怒りが再び顔を上げた。


 絶対に許せない……!!!


 ——そのとき。

 うつむくアタシの目に、一歩前に進み出る足が映る。

 顔を上げると、それは勇者だった。


「……なんだい、ユウ。文句でもあるのかい?」


 鋭い目つきでイヤーナがにらむ。

 だけど勇者は目をそらさない。


「イヤーナさん、その足をどかしてください」

「あぁん? あたいに意見すんのかい? ヘタレ勇者が物申すなんて10年はや……」

「どかせと言ってるんだ!!」


 言葉を遮って叫ぶ勇者。

 その瞳は、見惚(みと)れるくらいに真っ直ぐだった。


「僕は、争いは好きじゃない。でも……」


 勇者は言葉を切ると、更に一歩、強く前へ出る。


「アイラの想いを踏みにじるなら、それは絶対に許せない!!」


 勇者ぁ!


 アタシは胸に手を押し当てた。

 彼の言葉が嬉しくて、瞳に熱いものが込み上げてくる。


 勇者ユウは、誰かのために本気で怒れる人。

 誰かのために、自分の限界を超えられる人。

 だから、アタシは心惹かれた。

 彼のことが大好きだ!!!


「ぐ……」


 勇者の迫力に気圧されたように(うめ)くイヤーナ。

 二、三歩後ずさると、くるりと(きびす)を返した。


「きょ……今日のところは、この辺で許してやんよ!」


 吐き捨てるようにそう言って、足早に去っていく。


「え、ちょ……ね、姉ちゃん! 待ってくれよ~う!」


 慌ててワルスギルも走り出す。

 ギャラリーから割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。


 勇者は片膝をつくと、アタシに視線を合わせた。


「ごめん、アイラ。こんなことになっちゃって」

「ううん」


 アタシは首を横に振る。

 だって、アタシの心を守ってくれたのは、間違いなく勇者だから。

 もし、あのまま怒りのままに力を開放していたら……。

 この街は、地図から消えていたかもしれない。


「勇者、アタシの方こそゴメンね。プレゼント、ダメになっちゃった」

「……いや、まだ大丈夫!」


 勇者は潰れた箱を拾い上げる。


「きっとまだ、食べられるところはあるから」

「えっ!? や……い、いいよ! また後で作るから……」

「いや――」


 箱を見つめていた瞳がアタシに向く。

 その表情が、ふっと柔らかくほどけた。


「今、食べたい」


 勇者ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 爽やかなスマイルとイケメンなセリフ!!

 ちょ、もー!!

 そんなの反則だってばー♡♡♡


 さっきまでの怒りは遥か遠く。

 今はもう、心も顔も緩みっぱなし。

 アタシ、このまま液体になっちゃうんじゃないかってくらい、最高に緩んでる!!


「……あれ?」


 そのとき、不意に勇者が首を傾げた。


「アイラ、これ見て!」


 満面の笑みで箱に手を入れる勇者。

 そこから取り出されたチョコケーキは、見るも無残に潰れたもの……。

 ……ではなくて!!


 踏みつけられた跡なんかどこにもない!

 それどころか、まるで作りたてそのものだったの!

 それは、バルギウスが〝美味しくなるおまじない〟をかけたあのときから、時間が止まったみたいな……。


 ……って、え!?


 アタシは慌ててポケットから紙切れを取り出す。

 出発前にバルギウスに渡された〝取説〟ってやつ。

 そこにはこう書かれていた。


『アイラ様がこれを読んでるということは、何か困ったことが起きたのですね?』


 バルギウス!?

 そう、それは彼からのメッセージだった。


『アイラ様も文字が読めるようになって、私は嬉しい限りです』


 う、うるさい!

 読()なかっただけなんだってばー!


『さて、その困りごとですが。私の予想では……嫌な女に絡まれたり、箱を叩き落されたり、挙句の果てに踏み潰されたりといったところでしょうか』


 予想えっぐ!

 完璧に当たってるじゃん!

 どれだけ先読み能力高いのよ!


『はっはっは、それほどでも』


 ちょー!

 先読み能力が高すぎて、手紙と会話してるみたいになってるー!!


『それはさておき。チョコケーキの件ですが、ご安心ください。こんなこともあろうかと〈防殻(プロテクション)〉の魔法をかけておきました』


 えっ!?


『踏まれたくらいではビクともしませんよ』


 バルギウス~~~~ぅ!!

 もー、最高に仕事できる男子っ!!


『あとは、アイラ様の番です。頑張ってくださいね』


 うん!

 ありがとう、バルギウス!!

 アタシ、頑張るから!!


「――勇者!」


 アタシは向き直ると、左胸の前で両手の指を合わせた。

 人差し指、中指、薬指、小指を内側へと丸める。

 そう、それは指で作ったハート♡の形。

 そして、それを勇者の手の中のケーキに向かって突き出すと、アタシはこう言ったの。


「……美味しくなぁれ♡」


 みるみる勇者の顔が赤くなる。

 対するアタシだって顔が燃えるくらいに熱いし、きっと負けないくらい真っ赤だ。


 勇者は頬をかきながら空を見上げて。

 アタシは恥ずかしくなって(うつむ)いて。

 でも、ちらっと顔を上げたら目が合っちゃって……。

 胸の中が温かくなって、くすぐったくて――。


「ふふふっ」


 思わず笑っちゃった。

 それは勇者も同じだったみたいで。


「あはははは!」

「えへへへへっ」


 二人で顔を見合わせて笑いあった。

 ……そのあと一緒に食べたチョコケーキは、世界中の何よりも甘く感じられた。




~その後のアイラ&バルギウス~


「――という感じだったの!」

「それは何よりでしたね。……ところで、本当にあの〝おまじない〟をやられたのですね」

「え、だってバルギウスがやれって言ったんじゃん! あれが、〈防殻(プロテクション)〉の魔法を解除するキーワードなんでしょ?」

「いえ、〈防殻〉は箱から取り出せば自然と解除されるようになっていました」

「……は!? じゃ、じゃあ、食べる前に両手でハートを作って、美味しくなぁれ♡ っていうのは!?」

「冗談に決まっているじゃありませんか。まさか、本当にやられるとは思いもしませんでした」

「ちょーっ!! あれやるの、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだからねーっ!!!」

「ふふふ。まあ、いいではありませんか。……おや、そうこうしているうちに夕食の時間のようですね」

「わー、今夜はオムライスだよね! アタシの大好物!」

「それは何より。それではアイラ様、お願いいたします」

「……ケチャップを渡してきて、何をお願いしてるの?」

「もちろん、アイラ様の得意な〝おまじない〟ですよ」

「……は!?」

「ほら、ケチャップで♡を描いて、子猫みたいなポーズで、『美味しくなぁれ、にゃんにゃん♡』って言ってくださいね」

「あ、アタシ、そこまでやってなーーーい!!!」



 最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!


「面白い」

「続きが読みたい」

「更新が楽しみ」

「アイラ可愛い!」


 と、少しでも思って頂けましたら、

 ブックマークや、下にある☆☆☆☆☆から作品の応援を頂けたら嬉しいです。


 これからもどうぞよろしくお願いします!

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