第十二章:解決への試み
月曜日。柯建寧は一人、台中市役所の資料室にいた。
「先輩、ダメです。やっぱり死霊だけを切り離すことはできません……。どうしても魂が癒着していて」
頼静雯は作業を止め、木刀を構えた。
「構わないわ。一度、あなたの全力でこの刀を打ってみて」
建寧は「完全凝聚」から「霊魂痛撃」を放ったが、木刀は微動だにしなかった。空式の魔法は、生死霊の力を完全に無効化していた。
「……悔しいな。もっと鍛えないと」
「焦らなくていいわ。それより、この資料を整理して。生死霊に関する記述を片っ端から探すのよ。……資料室はあなたに開放してあげる。これは私の独斷での特例よ」
建寧はカビ臭い資料の山に埋もれた。一学期の休学を決めた彼は、もはやレポートの心配をする必要もない。ただ、自分の命の糸を手繰り寄せることだけに集中した。
一方、学校での燕惠は心ここにあらずだった。小テストは白紙。友人たちが心配して声をかけるが、彼女は「卒業したら公務員になる」とだけ告げ、必死に日常を装っていた。
病院では、傅英石が主治医と格闘していた。
「退院は許可できません! その体で何を救いに行くというんですか」
「……教え子が、死ぬかもしれないんだ。一週間も寝ていられるか!」
魔法という不条理な現実に立ち向かうためには、医学という論理的な壁すらもどかしく感じられた。
夕方、建寧を訪ねてきた燕惠とともに、彼は一つの名前に辿り着いた。
「沈柏志。……かつて教官が教えた生徒だ。彼も生死霊の持ち主だったけれど、命を落とした……」
資料室に漂う沈黙。だが、建寧は諦めなかった。静雯が口にした「日治時代の治癒式魔法使い」という断片的な情報を頼りに、さらに古い記録を漁り続けた。
その日の夜、三人は傅英石の入院する台中栄総を訪れた。
「教官、沈柏志について教えてください」
傅英石は、かつての教え子の名を耳にして表情を曇らせた。
「彼は……高雄の『葉さん』から紹介された子だった。死霊が生霊を深淵へと引きずり込み、救えなかった。……生死霊を分離できれば可能性はあったが、誰もその方法を知らなかったんだ」
一週間後、傅英石が退院した。
その間、資料室に籠もり続けた建寧は、ついに奇妙な記録を発見する。
日治時代の群衆式魔法の先駆者、「伊東研二」。
「……伊東研二は玉山の西峰に神祠を建立し、祈祷の儀式を行った……?」
そこには、治癒式魔法使いと接触した形跡や、山神への畏敬の念が綴られていた。
現在の「西山神祠」。玉山国家公園によって再建された、古びた木造の社。
「……ここに、何かがあるかもしれない」
建寧がその情報を仲間に伝えると、頼静雯は「高雄の葉主任に群衆式魔法について聞いてみるわ」と言い、傅英石は「玉山への登山は過酷だが、行く価値はある」と頷いた。
建寧が燕惠に「玉山へ行く。危険だが来るか?」とメッセージを送ると、彼女は返信もせずに教室を飛び出した。
「私、今日はサボります!」
驚く教師や同級生を置き去りにして、燕惠は市役所へと駆け込んだ。
兄の命の期限が刻一刻と迫る中、四人は伝説の神祠を目指し、台湾の最高峰・玉山へと向かう決意を固めた。日治時代の記憶が眠る、あの山頂へ。




