外伝:傅金石、最初の生死霊
「彼は沈柏志。高雄の祭りで見つけた生死霊の少年だ。傅弟、お前に預けるよ」
「葉さん、急すぎますよ。僕は主任になったばかりなんですから」
当時28歳の傅金石は、先輩である葉主任に愚痴をこぼした。
「彼は孤児だ。福祉施設で育った子なんだよ。頼んだぞ」
そう耳元で囁かれ、傅金石は断れなくなった。こうして、沈柏志を連れて台中へと戻った。
「沈柏志。柏志と呼んでもいいか?」
「はい、主任」
「……僕は主任と呼ばれるのはガラじゃないんだ。歳も八つしか違わない。兄貴と呼んでくれ」
「わかりました、兄貴」
柏志は驚くほど礼儀正しく、正直な少年だった。社会福祉士や介護士に育てられたせいか、他人を助けたいという意志が人一倍強かった。魔法司に入ったのも、その志ゆえだ。
だが、傅金石は知っていた。資料によれば生死霊の持ち主は二ヶ月以上生きられない。情を移すべきではないと自分に言い聞かせ、ただ静かに二ヶ月を過ごさせるつもりだった。
傅金石は彼にイメージ訓練を施し、任務に同行させて実戦経験を積ませた。柏志はその期待に応え、特に攻城突破において死の力を遺憾なく発揮した。傅金石の「凍寒」がまだ手を冷やす程度だった頃、柏志の成長は凄まじかった。二人の絆は、任務を重ねるごとに深まっていった。
一ヶ月が過ぎた頃、柏志が資料室にこもるようになった。
「柏志、何か探しているのか?」
「いえ……少し興味のある資料があって。兄貴、屋上へ行ってもいいですか?」
訓練かと思い、傅金石は彼を屋上へ連れ出した。
屋上のドアを抜けた瞬間、傅金石は柏志の強烈な一撃を食らい、地面を転がった。
「……ゲホッ、柏志……どうした……?」
返答はない。柏志の蹴りが倒れた傅金石を襲うが、間一髪で回避する。
「あんた、僕に言わなかったな」
「……何をだ」
「僕の寿命が、あと二ヶ月しかないってことを」
「凍寒!」傅金石は柏志の拳を凍らせ、動きを封じた。
「主任、どうして隠したんだ! 答えてくれ!」
「……受け入れられないと思ったからだ。静かに逝かせてやりたかったんだ!」
「ふざけるな! あんたは僕をただの道具だと思ってたんだろ! 僕の気持ちなんてどうでもよかったんだ!」
柏志は凍った右拳を引きちぎるようにして脱出し、左拳を叩き込んだ。
「自分勝手だ!」
生死霊の力は、柏志の巨体と相まって傅金石を圧倒した。
「柏志、落ち着け。話し合おう」
「寿命がたっぷりあるあんたに、落ち着けなんて言われる筋合いはない!」
傅金石の顔面に拳が沈む。彼は吹き飛ばされ、鼻血が舞った。
「……このままでは、僕たちは『敵』になってしまう……」
傅金石は氷弾を柏志の足元に放ち、彼を転倒させた。
「あんたは最初から僕を殺すつもりだったんだ! 今さら敵も味方もあるか!」
柏志は狂ったように起き上がり、傅金石に馬乗りになった。
「やめろ……生成式は生死霊の天敵なんだ……魔法を使わせるな……」
傅金石は必死に拳を耐えながら、自分の手を抑え込んだ。
「天敵がなんだ! 僕は!」右拳。
「ただ!」左拳。
「生きたいだけなんだ!」右拳。
「生きたいんだよぉぉ!!」左拳。
傅金石の顔は腫れ上がり、意識が遠のく。
「これで……気が……済んだか……?」
「済むわけないだろう! 右拳。
「あんたを!」左拳。
「道連れにしてやる!」右拳。
「一緒に地獄へ落ちようぜ!」左拳。
柏志が両手を高く掲げた。死霊が柏志の理性を完全に飲み込み、生霊の光が消えた。傅金石は悟った。もはや、この少年は柏志ではない。
「……氷河」
傅英石が流した涙は空中で凍りつき、地面に叩きつけられて砕け散った。
この日から、魔法司の資料室は極機密となり、主任の許可なく立ち入ることは禁じられた。あの日、屋上に残ったのは、冷たい氷の塊と、一人の若者の遺体、そして魂を凍らせた傅金石だけだった。




