現実と決断
里親制度の書類を開く。
現実が突きつけられる。
年齢。
金。
将来。
「無理だろ……」
博はつぶやく。
子どもが二十歳になるころ、自分は八十歳。
普通に考えれば、ありえない。
「やめよう」
そう思った。
だが。
「……あの子、また来る気がする」
亜希の一言が、すべてを揺らす。
「孫ができたら、面倒見るつもりだったよね」
「まあ……そうだな」
「だったら、もう一回くらい……
子育てしてもいいのかもしれない」
博は驚いて亜希を見た。
「本気か?」
「本気じゃないけど……
本気になりかけてる」
博は笑った。
「俺もだ」
あの子は、ピンポイントで来た。
この家に。
この二人のもとに。
理由はわからない。
だが、偶然とは思えない。
「……似てるよな」
博がぽつりと言う。
「誰に?」
「わからん。でも……どこかで見た顔だ」
亜希も、うなずいた。
同じ感覚だった。
そして。
不思議と、怖くはなかった。
ただ一つだけ確かなのは——
あの子は、ここに来るべくして来た。
そんな気がした。
二人は同時に言った。
「仕方ないね」
「仕方ないわね」
そして、テーブルの上の書類を見つめた。
年齢の問題。
お金の問題。
将来の不安。
どれも現実的で、重い。
だが——
あの子が泣きながら抱きついてきた感触。
“ここがいい”と叫んだ声。
そして、二人の身体に起きた変化。
それらが、
“偶然ではない”と告げていた。
「……とりあえず、書類を読もうか」
「うん。逃げても、どうせまた来る気がするし」
二人は、
ゆっくりと、しかし確かに、
“決断”へと歩き始めていた。




