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児童相談所の訪問
二週間後。
児童相談所が訪ねてきた。
「親御さんの手がかりは、まったくありません」
「戸籍も、届け出も、遺失物扱いの報告もありません。
名前も、住所も、家族の情報も……何一つ」
そんなことがあるのか。
「ただ一つだけ——」
職員は、ためらった。
「石川さんの家に戻りたいと、毎日言っています」
さらに。
「三回、脱走を試みています」
空気が重くなる。
「……里親を、検討していただけませんか」
その言葉は、あまりに唐突だった。
職員は、ついに堪えきれず涙をこぼした。
「……救えるのは、石川さんだけなんです。
どうか、もう一度だけ会ってあげてください。
あの子は、あなたたちを“帰る場所”だと言っています」
児童相談所の職員が帰ったあと、
博と亜希はしばらく動けなかった。
テーブルの上には、
里親制度のパンフレットと、
“検討をお願いします”と書かれた名刺。
二人は、まるで嵐の後のように、
ただ茫然と座っていた。
「……なんか、夢みたいね」
亜希がぽつりと言う。
「悪い夢だといいんだけどな」
博は苦笑した。
だが、胸の奥では、
“あの子の泣き顔”が何度もよみがえっていた。
“ここがいい”
“帰るのはあそこ”
あの言葉が、耳から離れない。




