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謎の子  作者: Mr.Ara、mata
4/10

児童相談所からの電話

その後、博がハローワークから戻ったのは昼過ぎだった。

玄関を開けると、家の中は妙に静かで、朝の騒動が嘘のようだった。


「……いないと、広いな」


亜希は台所でお茶を淹れていた。

二人とも、あの女の子のことを口に出さないようにしていたが、

沈黙の奥には同じ思いがあった。


そのとき、電話が鳴った。


亜希が受話器を取ると、表情が変わる。


「……はい、児童相談所の方ですか?」


博が思わず近づく。


「実は……少し困っていまして」


担当者の声が、やや疲れている。


「その子なんですが……」


「はい?」


「名前を聞いても答えないんですが」


「はあ」


「代わりに——」


一瞬、間があった。


「“ここじゃない”って繰り返すんです」


博と亜希は、顔を見合わせた。


「ここじゃない?」


「ええ。“あそこに帰る”って。たぶん石川さんのお宅のことを指しているのだと思います。

 職員が抱こうとすると暴れて、……」


「あと、もう一点だけ……」


「なんでしょう?」


「その子、時計を見て——」


「時計?」


「“時間、まだある”って言ったんです」


“時間、まだある”。


三歳児が使うには不自然な言葉だった。


博は思わず亜希を見る。


(……やっぱり、普通の子じゃない)


電話の向こうの職員は、ためらいながら続けた。


「……石川さん。

 あの子、昨夜お二人の家にいたときだけは落ち着いていたと聞きました。

 できれば、もう一度だけ、会っていただけませんか?」


亜希が小さく息をのむ。


「私たち、ただの通りすがりですよ?

 親でも親戚でもないのに……」


「それは承知しています。

 でも、あの子は“帰る場所”を明確に指しているんです。

 ここまで強い執着を示す子は珍しくて……」


職員の声は震えていた。


「……正直に言うと、

 私たちでは、あの子を落ち着かせることができません。石川さん、何か心当たりはないのでしょうか」


博は胸の奥がざわついた。


(なぜ、うちなんだ?

 昨日会ったばかりの俺たちに、どうして……)


電話を切ったあと、夫婦はしばらく黙っていた。


「……どうする?」

「どうするって言われても……」


亜希は腕を組んで考え込む。


「でもさ、あの子……

 昨日、私たちの顔を見たとき、なんか“知ってる”みたいな目してたよね」


「……俺も、そう思った」


博は自分でも説明できない感覚を思い出す。


あの子の視線は、

“助けて”ではなく

“やっと見つけた”に近かった。


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