62話 俺が何したって言うんだ
俺は『校庭裏』行きのエスカレーターで、青い蛍光灯の光が移動するのを眺めていた。
《『フォトン』が精神を強め、そして精神が『フォトン』を強める。》
(・・・よくできた根性論みたいなもん?)
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突然だが、フロリスフロンティアの学生指導要領には『戦闘教養学』なるものが存在する。国史世界史を筆頭に多くの教科がガタガタになっている今世、『日常サイド』が形だけでも戦場の方を鑑みた数少ない事例だ。全校生徒が安全に配慮しながら学ぶ、血の池である。案の定、この世界にもランキングが存在する。
「今日の『戦闘教養学』の時間は、市街地エリアでの殲滅戦演習を行う。が、その前に前回の授業分の『ポイント配布』だ。成績上位者にはかなり多くのポイントが追加されているから、新しい火器消耗品等を実装してみてもいいだろう。ポイントを使う予定のない者も、自分の順位はよく確認しておけよ?」
若い元『サザンクロス』階級のインストラクターは、今日も爽やかに笑っている。俺は今日もつられて笑みを浮かべながら、支給された自分の端末を確認してみる。
───ランキング順位:240位/240人・・・『+0ポイント』
俺は今日も最下位だった。笑みが乾く。
(まぁ俺、ゲウム第七部隊の隊長だしな。)
「ランキング一位は、今回も折原霞。支給ポイント数は、驚異の110ポイントだ。」
黄色い大衆、それも自明の理だ。前回の授業は遭遇戦演習、蟻を倒して0ポイント、人を倒して10ポイントの対人特化型だった。運要素の強い遭遇戦で十一連勝するためには、光る実力が必要不可欠なのである。折原霞はフロリスに余裕で通用すると爽やかインストラクターに太鼓判を押され、折原も爽やかな笑みを返す。折原は容姿も大分整っているから、もちろんのこと歓声の条件は整っているわけだ。
「カスミ君やばば!!」
「カスミお前やっぱすげぇよ!」
「・・・ははは、人一倍臆病だっただけだよ。」
「謙遜なさるなってカスミ様よ!」
皆が名前呼び、みんなの折原は今日も健在。元『サザンクロス』階級のインストラクターはその『意味』をよく知っているから、称賛を止めて静粛を促すような真似はしない。これが次元の違う二人の話だ。憧れの対象たり得る輝きである。
「塩川、おはよ」
「あぁおはよ加藤」
「カスミ君、今日もモテモテじゃん。」
隣のクラスの『アホキャラ』たる加藤が言う。
「周りの人が悪い訳じゃないと思うけど、ずっと爽やかにしてて疲れちゃわないか心配かも」
「ふーむ。・・・うん、さすが加藤ってとこか」
「え、何が。」
「んにゃ、『居眠り担当』の俺よか苦労しそうだなって思っただけだ。『爽やか好青年』とか、『隠れ努力家』とかってな。」
「う・・・うるさ。私は『アホキャラ』の私の事も好きなの!」
「はいはい存じてますよ。今日も几帳面なアホ毛が素敵でいらっしゃる」
小声でこう返して、俺は怒りのストレートを喰らったのだった。
「───んで、実際のとこどうなんだ?折原。」
「・・・どうなんだ、折原。」
場面変わって某日昼休みの屋上、天気は曇り。俺、佐藤、折原は男三人、淡々と弁当を食っていた。
「折原が疲れちゃわないか心配してくれてる奴がいるんだぞ、名前は伏せるが」
「そりゃあ。疲れないって言ったら嘘になるよ。敢えて本心を言えばうん・・・あー、もうね!!爽やか笑顔で表情筋がキリキリ痛いんですわ!!僕高校でも『読書担当』貫くつもりだったんですけどね!ところで『窓際族九班』の友情はどうなったんだ塩川。」
窓際族九班、懐かしいワードだ。実は完璧超人みたいになった折原と俺には、元々長めな馴染みがあったりするのである。
「窓際族九班は『早弁担当』が転校して解散したろ。今は萌音だって『真面目担当』から『人気者担当』に大変身ね、人気人気転校居眠り。俺が何したって言うんだ。」
「・・・居眠りをしてたんじゃないのか?」
「正解だよ佐藤正解。塩川はいつも『居眠り』をしてたんだ。なーにが『最下位0ポイント』なんだろうね、本気を出せば僕なんて目じゃないくせにさ。」
「いや、それには一身上の都合があってだな」
「・・・聞かせてもらおう。」
俺は楓不在により自分で作ったちくわ南蛮を口に突っ込んでから、一度弁当を置いた。
「あの授業、脱落した奴から妙なゴーグル着けて『敵側』、雑魚アリの操作側に回ってくだろ?あれが滅茶苦茶面白いんだよ、一匹狼って言うだろ、蟻だけど。」
戦闘教養学の演習は全て、『生存』さえすれば点数が入るになっている。戦場を生き抜くうえで肝要なのが、戦場を生き抜くことだからだ。ただ俺は、いつも速攻で『雑魚のアリ』にやられて脱落する。思うのだ、戦場を生き抜くために必要不可欠なモノ、それは必ずしも『生存技能』とは限らないだろう。苦しい現状と、死の前にひりつく胸の痺れ、あるいは恐怖。それを安全に味わうにも味わわせるにも。俺は『蟻』になるのが正しいと考えたのである。
───だから今日の殲滅戦演習で、俺は『蟻一匹』から生存者三十九人を全滅に追い込んだのである。
「やっぱ〈蟻一匹死のもと〉ってな。冗談きついだろ。」




