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下級兵塩川の日常  作者: 塩ソルト塩
5章 ああ騒がしきわが日常
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59話 全部繋がりやがった

無言と緊張の一本橋を突き抜けて、青のオープンカーは軽快に車体を滑らせる。ほんの一時間後、俺たちは林の口に高級車を乗り捨て、そこからは徒歩で見知った公園に戻ってきたのだった。



「やっぱりここなんだな。」


「妹と、よく遊んでたところなの。」



横倒しになった、一本の土管のある公園だった。理沙は公園に来るなり駆けていき、先のエアダクトよりずっと風通しのいい暗闇に落ち着いた。



「・・・まだ、分かんない事ばっか」



彼女は膝を抱えて呟いた。俺は釣り餌のたい焼きも持ち合わせていなかったから、彼女を土管から引っ張り出すような真似はしなかった。俺も疲れていたから、上半身だけを土管に入れて横たわった。



「海を渡って、工場の地下に連れて来られてさ。『妹がもういない』って言われて、ああ私もう終わっちゃんだなって、そこで全部諦めたのに。」



理沙の目は見えていなかった。



「なんで、あそこにいたの。」



俺は組んだ手のひらを枕にしていた。



「・・・確かに、お前の言う通り噴水広場で待ってようと思ってたんだ。それで帰ってきた妹を、お前の代わりに抱きしめようってな。・・・いや、俺にどう抱きしめろって?」



遥か遠くの、昨日の深夜、俺は理沙に声をかけなかった。ただ決して、そのすすり泣きが聞こえてなかったわけじゃないんだよ、理沙。



「お前のこと見殺しにした俺が、どの面下げて妹の面倒見ろって言うよ。てか妹居なかったわけだし。・・・や、これも違うか。・・・そうだな、あれだ。何言いたいか分かるだろ。」



あれは理沙の本当の『望み』じゃないってな、最初から分かってたことだった。



「助けたかったんだよ、お前らのこと。」


「っ・・・」



理沙は少し憤慨した様子だった。



「『助けて』って、誰もお願いしてないでしょ。弱いくせに出しゃばるなって言ったじゃん」


「弱くなかったろ」


「誰かが私のせいでボロボロになるとこ、もう見たくなかったのに。」



言いたいことは分かった。良いように言っても、俺が理沙のお願いを無視したのは事実だった。だが、俺も俺で考えがなかったわけじゃない。とびきりくだらねぇとっておきの主張が、一個だけあったりするのだ。



「おいおいバカ言うな、最初に吹っ掛けたのそっちの方だろ?」


「吹っ掛けたって、何を?」


「・・・『お試し期間』。」


「あ・・・っ。」



俺は強引に引き入れられた『お試し期間』の終わりを、彼女の口からハッキリ告げられてはいなかった。だから、仮に俺が弱くても、だ。恋人としてなら、それなりに出しゃばる権利があると思ったのだった。



「あ、えっと、忘れてた。・・・それで助けに来たの?その、私の事。」


「ほんとなら妹の所在掴んだ時点で、工場にいる連中は全滅させてやる計画だったんだけどな。・・・悪かったよ、情けなくて。」


「え、いや、いいよ、塩川のせいじゃないし・・・。」



歯切れ悪く返事する様に、やはり思う。



(大事な妹に、今すぐ会わせてやれたら。)



理沙が根っこから笑顔になった瞬間を、俺は一度も見たことが無かった。



「でも、そっか。これでまた振出しに戻っちゃった。」



理沙は家出した妹を探している。だから今、理沙はまだ土管の中でうずくまっている。『妹に会いたい』という根本的な望みは、未だ叶うには程遠いように感じた。



(いっそのこと、どっかに転がってたりしねぇかな、理沙の妹。)



俺がそう思った、ジャストのタイミングだった。


理沙は祈るように、こう言ったのだ。




「会いたいよ。───『楓』・・・っ!!」




耳を疑うより先に、古いドライヤーみたいな熱がブワッと吹き上がった。



「あのさ、理沙。」


「うん・・・?」


「苗字って教えてもらったっけ。」


「えっと、『稲佐』だけど。」



突拍子のない質問に首をかしげる理沙の前、俺は枕にしていた手を額に当て、目を覆い隠した。




要点だけ、はっきり言おう。





───理沙の妹は、俺の自宅に転がっていた。




「・・・楓、なの・・・!?」


「え、嘘・・・お姉ちゃん・・・・・・?」


「楓・・・っ!!」


「お姉ちゃん・・・っ!!


「楓っ!!」


「お姉ちゃんっ!!」


「楓ぇぇ・・・!!」


「お姉ちゃぁぁん・・・!!」



立ち尽くす俺の前で、二人は抱きしめ合って泣いた。部屋の電気は消えていて、外の明かりが横から部屋を照らしていた。そんなよくある昼下がりに、二人はあっけなく、俺の図らなかったところで再会を果たしていた。俺はアホみたいに熱くなる胸を確かめて、自分の口を閉じていられなくなった。



(・・・夢、じゃないよな。)



理沙が泣きながら笑っている。やはり彼女は泣き虫だけあって、一番うれしいときもわんわん泣くらしい。楓が喜んで泣くさまも初めて見たが、ここで俺は二人の顔立ちがよく似ていた事に気づいた。



しかも同時に、もう一つ驚くべきことがある。



楓が理沙の妹ってことは、理沙が楓の姉ってことだ。楓の姉が理沙ってことは、つまり。




───家出した理沙の妹が楓で、失踪した楓の姉エルピア=イン=アーサーが理沙だったってことだった。




「わけ分かんねぇとこで、全部繋がりやがった。・・・っはは、拍子抜けも、良いとこだ・・・ぜ・・・・・・」



俺は笑って、その場でぶっ倒れた。




──────



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