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下級兵塩川の日常  作者: 塩ソルト塩
5章 ああ騒がしきわが日常
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57話 なんかシンプルになった

「っ、はは、ははははは。傑作、傑作だよ塩川クン。頑張った君たちに本当の事教えてあげる。」


と言った総長とやらは、次にこうも言うのである。



「───妹ちゃんを捕まえたっていうの、あれ嘘。」


一瞬耳を疑う間は、まだ元気があったんだが。



「「っ・・・!!」」



握りこぶしの力が驚くほど簡単に、するりと抜け落ちていった。



「能ある鷹は無い爪を現す。本当は誘拐なんてしてないのさ。要するに真っ赤な嘘。君たちはまんまと騙されたって事。理沙ちゃんはわけもわからず契約書にサインして、塩川クンは能無し女のために体張ったの。本当はなーんにも意味無いのにね!!」



ごみ溜めみたいな部屋で何を言ったかと言えばこうだ。『ゲームオーバー』。理沙は下衆の手のひらで踊らされて、実際は助けたかった妹すらいない。正直今アイツの顔は見れないな、多分泣いてもいないから。


「はは。っははははははは。」



疲れた口から、笑い声がこぼれている。可笑しくてしょうがないぜ、何も意味なかったってさ。



「あれ、狂っちゃった?」


「ククク、ははははは!!」


「こりゃダメだな、もうイカれちまってる。」



二人が呆れ返った表情で、俺の方から顔を背けた。俺が笑みをやめ、もう一回握りこぶしに力を入れてみるとすればそのタイミングだった。残息奄々でも手首の骨は浮いて出る。力は入るって事だ。開いた手をビッと伸ばして、小指から一本ずつ畳んでしまえ。心臓より高い位置にあったって、脈打って痛む。



「・・・はーあ、笑うと腹痛んだけどなぁ総長。なぁおい、全部嘘だったって?」



「あ?」


「・・・田口、そのバット寄越せ。」




先に振り向いたのは田口だ。次に当の総長。眉間にしわよせて近寄ってくる男二人組、奥の牢には助けたい女子が一人。




後顧の憂いがあるかないかで言えば、無い。




「───いいね、なんかシンプルになった。」



眼を見開いてやると、理沙と目が合った。それで俺が超ウザめなウィンクを送ったものだから、目の前の男二人はいっそう殺気立ってしまったさ、あぁ勘違いなのにな。



「・・・口の利き方に気をつけろって言わなかったっけ?そんなに死にたいならトドメ刺してあげるよ。」



総長は大袈裟に振りかぶる。狙いは多分頭だ。俺の頭はちょうどTボールの打点くらいの高さにあった。


「せぇ、のッ!!」



木製バットはかがんだ俺の脳天目掛けて迫り、どうなったかって言えば、こうだ。




「おぁ──ッ!?」



空を切った。総長は体勢を崩す。



「空振り、頂き。」



そしてすかさずの、空中踵落としである。



「ぐぼぉっ!!!」



理沙の目に光が戻る。このタイミングだった。総長とやらは一撃でくたばってみせた。俺は宙を回転し終えて着地、同時に俺を縛っていた鎖が盛大に砕け散った。もう一度記そう。俺を縛っていた鎖は、ものの見事に砕け散っていた。


「けほっ、けほっ、錆びたまま使うからガタが来るんだ。物持ちしない悪癖が仇になってんじゃねぇの?」


「お、おうおうやってくれたなぁおい・・・!この『工場地下』にテメェの敵が何人いるか分かってんだろうな!!」


田口があからさまなボタンを殴ると、地下牢に赤い光が撒き散らされる。警報機はこれでもかと大声を出して、外の連中に武装の依頼を出しているらしい。


「敵なんざいるかよ。・・・なぁ理沙、もう暴れて良いんだろ!」


「っ!」


「な、テメェらハナから演技を!!」


「理沙の方は演技じゃねえ、よッ!!」


「ぐぉっ!?・・・へへ!」


防がれた、思ったより手練だ。軍人崩れか?元フロリスって線もある。


「ガキの蹴りなんざ効かねぇな。せっかく照明が豪華になったんだインファイトしようやオラ。 」


(あらら、ゼフィランサス式格闘術ね。指名手配モンじゃねえか。)


「っ、ぶねぇな。そこでグロってる総長よか、あんたの方がワル極めてそうだけど!」


「そのカスは自分が偉くなった気でいたらしいが、この組の実権握ってんのは俺だ!フロリスの『近接部隊』副隊長、『狡猾の田口』!!今回の件を計画したのも俺なんだなぁ!!」


極めて凶悪な攻撃の手だ、相手が嫌がる手法を全部網羅してやがる。


「警察が女子供いじめてんじゃねぇよ・・・!!」


「こっちが本業なんでなぁ能無し女引っ掛けて荒稼ぎ!!家族想いは馬鹿しかいねぇや!」



「あぁ馬鹿だよそいつは。姉妹のこととなると途端に大馬鹿だ、よく似た妹も知ってる。けど畜生がよ、───理沙がどんな覚悟でここ来たと思ってんだッ!!!」



俺は枯れた声で叫ぶ。今の今まで溜め込んだフラストレーション、早く気づいてやりたかった、心配もさせずに助けてやりたかったってな、全部自責の念だった。自分に向かってはよく怒鳴れるものだった。



「ぬるいんだよ、糞ガキィッ!」


「るせぇっ!!」



即断即決。殴りが飛び、手首がいなす。一瞬の攻防はサイレンの光が一周する前に決していた。



「なん、なんだ。その返し技、は・・・」


「Justica式、適応戦闘術。要するに『形無し』ってことだ。」


柔道じゃあり得ない汚さの、投げ。田口は自分が乗せた体重そのものに飛ばされ、奥の壁に背中を強打して動かなくなった。


「『正義は勝つ』ってな知らねぇけど、あんたらの負け。・・・っとやべ、息つく暇ねぇか」


見るまでもなく、出口の方が荒れてきたのが分かる。肋骨が軋む今は考えたくもなかいんだが、やはり各々の武器を持った増兵のようだ。俺は伸びてる総長の服から鍵束を剝ぎ取り、『1番』の牢を開けて理沙に駆け寄った。


「理沙、動けるか。」


「う、うん。でも手錠が・・・」


「大丈夫だ。こういうのは知恵を使えば外せるって教官がな・・・っ、よし。」


「・・・。」


「火事場の馬鹿力に頼るのも知恵。」


千切った。理沙は精一杯驚きの表情を作っていたが、こればかりは仕方ないなにせ時間がない。今にも敵兵は地下牢に続く長い階段を下ってきているのだ。



「このダクトだ、やるぞ理沙。」


「やるって、何を・・・!?」


「そらお前、決まってら。」



まだ困惑した様子の理沙の横で、俺は金属の制気口を思いっきし蹴っ飛ばして破った。




「───脱獄だ、二人で!!」

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