54話 ギルティっちゃギルティ
『なんで無茶したの。』
たった今理沙の放った言葉が、脳内を巡っている。大きな駅の一つ隣の駅、ホームの端っこのベンチ。理沙はちょっと涙目だった。
「無茶って、何も死にやしねぇんだから。」
言いつつも、やはり引っかかる。頂点階級第四部隊のエースにも同じことを問われて、ちょうどその問いの答えを出せずにいたところだった。
「言ってたことと真逆じゃん。強がるくせに強くないじゃん。」
「ふむ・・・怖かったのか?」
「っ、ムカついてんでしょ、身の程弁えろっ」
「言ってくれやがるなギャルのくせに。」
「ギャルじゃないし」
キレ返す金髪のミニスカート、どう見たってギャルそのものじゃないか。
「嘘をつけ。痴漢に関しちゃ相手が百悪いが、その見た目する方も大概だ、ギルティっちゃギルティ。今日もその格好で誰拐かすつもりだったのかね。」
「可愛い子がこうしてたから真似てみただけだし。」
「こないだの猫かぶりもそのきゃるるんの真似って?」
いけないな、語感が自然に尖る。忘れてやろうと意気込んだ直後に出くわしたのが尚更良くない。
「っ、ムカつく。あーそうです、そうですよ。ぼんやりした奴がいたから遊んでみただけ。もしかして根に持ってるの?」
「そりゃ持つだろ、若い芽の男児を玩ぶもんじゃねえ。」
何が嫌かと言えば、〈人類は往々にしてこうなのだろう〉ってな諦観だ。女の子を痴漢から助けるようなことがあっても、有難迷惑だったり勘違いだったりはざらにある事だ。諸々がかったるくなる。これだから月曜の朝は嫌いなのである。
「・・・玩ばれてくれなかったくせに」
「何が言いたいんだか知らねえが、そっちがご健勝なら俺はもう行くぞ。」
「急いでるの?」
「学校だからな。遅刻すると可愛い幼馴染に怒られる。つってももう手遅れっちゃ手遅れなんだけど」
「・・・あっそ。」
何が不満なんだかさっぱり分からない。が、悲劇が無かったならいいさ。はたから怖い思いなどしてなかったと言うのなら、それはそれで構わない。俺は理沙についてこれ以上言及するつもりはない、何度も言うが忙しいのである。
「そんじゃな。トラウマになりそうなら誰かしらに相談しろよ。多分お前の崇拝してるきゃるるん辺りなら、同じような経験とそれとで共有してくれると思うぜー。」
俺は背なかで手を振って、各停に乗り換えた。
「・・・うるさいって、お人好しのばか塩川」
(聞こえん聞こえん、達者でやれよ。)
結局、姉崎萌音のお説教はいつもより長引いた。遅刻した言い訳として、頭の傷の原因を話してしまったのが運の尽きだった。
それから一週間の間、俺は眠い朝、家をちょっと早めに出て、水色の髪と水色の眼、というよりパーカーを探しながら登校するわけだが。運命はこんなに徒なもんだったか、毎朝疑問に思うのである。
──────
寂れた公園。
「・・・グスッ。」
「理沙。」
「っ、なんでいんの」
「ふむ・・・そいつぁ俺のセリフってか何してんだ。」
「関係無いでしょ」
「まあ、ないか。そんじゃな。」
──────
また翌日、別の、寂れた公園。
「・・・グスッ。」
「グスってお前、女子高生が土管に籠って泣くかよ今どき。」
「うっさい、塩川には関係ないでしょ。」
「ないけど。・・・コロッケ食う?」
「いらない。」
「そうか、そんじゃな。」
──────
またまた別の、寂れた公園。
「・・・グスッ。」
「ブランコで浸るなら夕方が妥当だと思うんだが、どうした理沙。」
「勝手でしょ」
「コロッケ食う?」
「いらない、しょっぱい気分じゃない」
「・・・今朝、寒かったろ。たい焼きもある。」
──────
またまた、また別の。
「・・・グスッ。」
「・・・あーあ、こんなとこにも泣き虫女子高生。」
「うっさい、なんでいんの!!」
「知らないけど。たい焼き食うだろ、今日はお前の分も入れて二個買ってきた。」
「馬鹿じゃないの。」
「ふざけてるとは思うんだけどな、慣れた。」
──────
「グスッ・・・」
「んで、なんでお前は毎朝飽きもせずべそかいてるわけ。」
土曜の早朝にようやく、俺は今まで聞いてこなかったことを聞いた。それはやけに見晴らしのいい、四度目に理沙に会った公園のブランコだった。
「うるさい、塩川には関係──」
「───あるだろ、もう。」
「ッ・・・!!」
行く先々のイベント発生、with理沙。もう勘弁してパーカー美人を寄越してくれと問いかける俺を違う運命力が襲って、いくらでも続いていた。パーカー美人に会いたいのとは裏腹に、俺は理沙に遭遇し続けていた。だからもうやめだ、さっさと解決して次に行くのが先決である。
「俺はなんでお前が盗聴器を付けようとしたのかも、その鞄がなんで毎回重そうに金属音立ててんのかも分かんねえよ。なんでこんなに出会っちまうのかもさっぱり分かんねぇ。・・・でもおまえ、あれだ。」
「なに。」
睨みが弱いな、手応えありだ。
「なんにも話さなくていい。協力するから泣き止め。」
たい焼きは買ってない。
しかし彼女は涙を拭うのだった。
「・・・わかった。」




