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下級兵塩川の日常  作者: 塩ソルト塩
5章 ああ騒がしきわが日常
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54話 ギルティっちゃギルティ

『なんで無茶したの。』



たった今理沙の放った言葉が、脳内を巡っている。大きな駅の一つ隣の駅、ホームの端っこのベンチ。理沙はちょっと涙目だった。


「無茶って、何も死にやしねぇんだから。」


言いつつも、やはり引っかかる。頂点階級第四部隊のエースにも同じことを問われて、ちょうどその問いの答えを出せずにいたところだった。


「言ってたことと真逆じゃん。強がるくせに強くないじゃん。」


「ふむ・・・怖かったのか?」


「っ、ムカついてんでしょ、身の程弁えろっ」


「言ってくれやがるなギャルのくせに。」


「ギャルじゃないし」


キレ返す金髪のミニスカート、どう見たってギャルそのものじゃないか。


「嘘をつけ。痴漢に関しちゃ相手が百悪いが、その見た目する方も大概だ、ギルティっちゃギルティ。今日もその格好で誰拐かすつもりだったのかね。」


「可愛い子がこうしてたから真似てみただけだし。」


「こないだの猫かぶりもそのきゃるるんの真似って?」


いけないな、語感が自然に尖る。忘れてやろうと意気込んだ直後に出くわしたのが尚更良くない。


「っ、ムカつく。あーそうです、そうですよ。ぼんやりした奴がいたから遊んでみただけ。もしかして根に持ってるの?」


「そりゃ持つだろ、若い芽の男児を玩ぶもんじゃねえ。」


何が嫌かと言えば、〈人類は往々にしてこうなのだろう〉ってな諦観だ。女の子を痴漢から助けるようなことがあっても、有難迷惑だったり勘違いだったりはざらにある事だ。諸々がかったるくなる。これだから月曜の朝は嫌いなのである。


「・・・玩ばれてくれなかったくせに」


「何が言いたいんだか知らねえが、そっちがご健勝なら俺はもう行くぞ。」


「急いでるの?」


「学校だからな。遅刻すると可愛い幼馴染に怒られる。つってももう手遅れっちゃ手遅れなんだけど」


「・・・あっそ。」


何が不満なんだかさっぱり分からない。が、悲劇が無かったならいいさ。はたから怖い思いなどしてなかったと言うのなら、それはそれで構わない。俺は理沙についてこれ以上言及するつもりはない、何度も言うが忙しいのである。


「そんじゃな。トラウマになりそうなら誰かしらに相談しろよ。多分お前の崇拝してるきゃるるん辺りなら、同じような経験とそれとで共有してくれると思うぜー。」


俺は背なかで手を振って、各停に乗り換えた。



「・・・うるさいって、お人好しのばか塩川」



(聞こえん聞こえん、達者でやれよ。)




結局、姉崎萌音のお説教はいつもより長引いた。遅刻した言い訳として、頭の傷の原因を話してしまったのが運の尽きだった。



それから一週間の間、俺は眠い朝、家をちょっと早めに出て、水色の髪と水色の眼、というよりパーカーを探しながら登校するわけだが。運命はこんなに徒なもんだったか、毎朝疑問に思うのである。



──────



寂れた公園。


「・・・グスッ。」


「理沙。」


「っ、なんでいんの」


「ふむ・・・そいつぁ俺のセリフってか何してんだ。」


「関係無いでしょ」


「まあ、ないか。そんじゃな。」



──────



また翌日、別の、寂れた公園。


「・・・グスッ。」


「グスってお前、女子高生が土管に籠って泣くかよ今どき。」


「うっさい、塩川には関係ないでしょ。」


「ないけど。・・・コロッケ食う?」


「いらない。」


「そうか、そんじゃな。」



──────



またまた別の、寂れた公園。


「・・・グスッ。」


「ブランコで浸るなら夕方が妥当だと思うんだが、どうした理沙。」


「勝手でしょ」


「コロッケ食う?」


「いらない、しょっぱい気分じゃない」


「・・・今朝、寒かったろ。たい焼きもある。」



──────



またまた、また別の。


「・・・グスッ。」


「・・・あーあ、こんなとこにも泣き虫女子高生。」


「うっさい、なんでいんの!!」


「知らないけど。たい焼き食うだろ、今日はお前の分も入れて二個買ってきた。」


「馬鹿じゃないの。」


「ふざけてるとは思うんだけどな、慣れた。」



──────



「グスッ・・・」


「んで、なんでお前は毎朝飽きもせずべそかいてるわけ。」


土曜の早朝にようやく、俺は今まで聞いてこなかったことを聞いた。それはやけに見晴らしのいい、四度目に理沙に会った公園のブランコだった。



「うるさい、塩川には関係──」


「───あるだろ、もう。」


「ッ・・・!!」



行く先々のイベント発生、with理沙。もう勘弁してパーカー美人を寄越してくれと問いかける俺を違う運命力が襲って、いくらでも続いていた。パーカー美人に会いたいのとは裏腹に、俺は理沙に遭遇し続けていた。だからもうやめだ、さっさと解決して次に行くのが先決である。



「俺はなんでお前が盗聴器を付けようとしたのかも、その鞄がなんで毎回重そうに金属音立ててんのかも分かんねえよ。なんでこんなに出会っちまうのかもさっぱり分かんねぇ。・・・でもおまえ、あれだ。」


「なに。」



睨みが弱いな、手応えありだ。



「なんにも話さなくていい。協力するから泣き止め。」



たい焼きは買ってない。


しかし彼女は涙を拭うのだった。



「・・・わかった。」

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